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【お兄ちゃん】 年下の女の子に言って欲しい呼び方。 つくぶんの女性会員が先輩の男性会員を呼ぶときはぜったいにこう。 これ以外の呼び方をするとまじぎれされる。 まじぎれされてなんかこう罰を与えられる。罰を。 公式ルールにもあるから。この呼び方をするようにって。本当に。 本当だから。だからねっお願いだよ。お願いっていうか、ほら、ね?ほら。
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【氏名】お兄ちゃん 【年齢】15 【プレイしているカードゲーム】 ヴァンガード、ヴァイスシュヴァルツ、デュエルマスターズ sex 【性格】 声がやたら大きい。 注意されてもなかなかなおらない。 すごいパーマ。 よくハゲを煽って怒られている。むいぐるみを溺愛して おくもとたいよう
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autolinkTOP>【お】>お兄ちゃん! 「お兄ちゃん!」 (おにいちゃん) 分類1【言語全般】 ジャンル5【その他・作品・番組】 機動戦士Zガンダムのロザミィ(ロザミア・バダム)が流行らせ、機動戦士ガンダムZZのリィナ・アーシタが受け継いだ台詞。 が、元祖は『くりいむレモン』だったりする。 登録日 2004/03/10 【お】一覧 お【「・・・お」】 花魁 往診ドクター事件カルテ 大江戸捜査網 大阪城 大阪城ホール 大阪人 大滝警部 大滝秀治 大野克夫 岡田彰布 オカルト 沖一也 起きて半畳、寝て一畳 オギノ式 沖野ヨーコ お好み牛玉丼 長田結花 教える 押し車 押しピン オダギリジョー 大人買い 大人の対応 踊る大捜査線 お兄ちゃん! おにぎりせんべい おニャン子クラブ お姫様だっこ おみやさん 思惑 オヤジぃ。 おらしんのすけ 折鶴の結花 オルフェノク 俺たちの勲章 俺たちは天使だ オレたちひょうきん族 オロナミンC おんぶおばけ 隠密同心 ■ トップページへ移動 ▲ このページ上段に移動
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あたし、お父さんやお母さんとは、日曜日以外、ほとんど会えません。 夜中に、寝苦しかったりして起きると、寝室にいる気配を感じるのと、いつもの机の上に、前の夜に置いた学校からの手紙やプリントには返事が書かれているので、私の寝ている間に帰ってきて、出かけて行くのだと思います。 じゃあ、どういう生活を送っているのですか?って? あたし、お隣の「お兄ちゃん」に育てられました。お父さんやお母さんより年上なので「おじちゃん」なのですが、「おじちゃん」って呼ぶとイジワルになるので「お兄ちゃん」と呼んでいます。 あたしは良くわからないのですけど、あたしが生まれた頃、お兄ちゃんは学校に「幼稚園」と「小学校」の先生になるお勉強にに行っていて、今では「幼稚園」と「小学校」の先生になれるそうです。 それで、保育園の時から、ずっと、お兄ちゃんと一緒。 10歳になったので、寝るときにはおうちに帰るようになっりましたが、ソレまでは日曜日の朝9時から夕方4時位までしか、おうちに帰らなかったんです。 お兄ちゃんがお父さんやお母さんに色々お話してくれたり、お洗濯やお掃除してたみたいです。 お兄ちゃんの今のお仕事はコンビニの店員です。 女子大付属の幼稚園、小学校、中学校と電車の駅の間にあるお店。 あたしの小学校からは、おうちの反対側になるんだけど、学校帰りに、お兄ちゃんのおうちの鍵を借りに行くの。 そして、鍵を借りたらおうちに帰って(?)お掃除やお風呂を沸かしたり、お洗濯したり、お兄ちゃんを待ちます。 宿題やお勉強はお兄ちゃんが見てくれるから、成績はすごく良いよ。さすが先生。 晩ごはんや朝ごはんは、お兄ちゃんが色々教えてくれました。 だから学校の、料理実習やお裁縫なども余裕でOK! で、成績と立ち居振る舞い、なら、あの女子大付属の小学校に行ける位らしいの。小学校の先生が言っいました。学校では、コトバ使いも気を使っていますから。例えば「ワタクシ」って。 制服もすごくオシャレで着たかったんだけど・・・・。 でも、お父さんやお母さんは今の村立小学校に通わせました。共学の。 お兄ちゃんに、「何で学校の先生にならないの」って聞いたら 「どうしても生徒が、女子だけの幼稚園や、女子だけの小学校の、先生になりたいから」ですって。 どうしても、共学校や男子校はイヤだと言いました。 お兄ちゃんは、いまだにあたしを、赤ちゃん扱いします。 例えば、着替えやおトイレ、お風呂とか、いちいち、くっ付いてきます。 10歳の女の子に扱ってほしいなぁ。 だけど、服や靴、アクセサリー、コスメ、なんかを買ってくれるし、お料理もお裁縫も上手だから、嫌われたくないので、ガマン。 でも妙なところはオトナ扱い。 例えばキスは、幼稚園の時に「お兄ちゃんのオヨメサンにして」って唇重ねちゃて、小学校に通うようになってからは、大体毎朝、玄関で結構長い間、舌を絡ませたり、ツバを飲ませあったりしてるの。 ガマンといえばお兄ちゃんの服の趣味。 「中学生や高校生のお姉さんの制服に近いものを着て欲しい」と言っているけど・・・・・必ずしもそれには当てはまらないの。 例えば、冬でも、ミニスカートとかミニワンピとか、腿が見えたり太腿が見えるくらいのを着せるの。 男の人たちにわかるように、下からお話しすると 靴下は大抵、 クルブシ丈か膝が隠れる程度のソックス 太腿をゴムかレッグガーター(腿につける、飾り付きの輪)で留めるストッキング などが好き。 素足にサンダルやゾウリ、下駄、などは大好き。 パンストやタイツ、それから腰につけるガーターで留めるストッキングは嫌い。 スカート類は腿が見るかソレより短いのだけで、スソがヒラヒラのや、ヒダが多いのが多いかな。 タイトとかジーンズだと、脇に切り込みが入っていたり、両脇は完全に前と後ろが切り離されていて、紐で結んであったり。コレはパンツを選ぶよね。 Gパンやホットパンツ、キュロット、レギンスっていうかスパッツ、などは、嫌い。 それからシャツ類 肩が出てるのが好きで、特に脇や背中が大きく開いているキャミソールやタンクトップが好き。 冬や真夏などはヒジが隠れる手袋をはめさせる。 あとは、ボレロやカーディガンなどの重ね着。とにかく基本的に「ソデなし」 たまにエリが付いているワンピ、でも、ソデなしで、丈は普通に立っていて腿が出るから、姿勢を崩したりすると、大変な事に。 さらに、そういう服に限って、前はボタン留めだけど、一番下はオヘソより高い位置。だから、めくれやすいの。 それからコレは有り?っていうのが、 1、雪の日とかに 「厚地の膝上丈の袖有りコート と クルブシ丈靴下 に 膝下までのブーツ」 2、浴衣やカスリ、と、草履 ほかには下着を含めて着るもの無し。 浴衣は、譲れない事は無いですが・・・・ 最後に下着なんだけど・・・・・ あたし、そろそろ胸が出てきたんだ。まだ硬いし小さいけど。 だけど上半身の下着って、基本的に着せてくれないの。 だから脇とかから胸が見えてると思うな。というか視線を感じる事はありますよ。 パンツ類は 去年くらいまでは。果物とか動物、漫画などのプリントや無地のや、しま模様などで、生地も厚めで、お尻もお腹も完全に隠れるものだったんだけど・・・・・ 最近は 股上が浅く、お尻の半分以上が出る、だから前から見るとおヘソのカナリ下まで見えるの。 透けるように薄い生地でクロッチ(股下部分の当て布)なし。 お花とかを形どった、スケスケ編みのもの。コレもクロッチ無し。 腰周りは4cmくらいのベルト状で、そこから股下を回る部分が3cm幅くらいの生地でできているの。いわいるTバック。 股下部分の布が無かったり、男のパンツの前の部分みたいに開くようになっている。 などが増えてきてるんだ。 でも、こういうパンツは、みんな、お兄ちゃんとの、お買い物やお散歩、それから、遊園地や博物館、動物園などのお出かけ用。 おうちの中では?最近はミニスカだけ。 見るのはお兄ちゃんだけだから良いのだけど、ね? 家の中ではパンツ禁止、お出かけは穿いてるか穿いて無いかわからない様なパンツ ってなったきっかけは・・・・・ 学校でパソコンの授業が有って、 そしたらお兄ちゃんが、小型のパソコンに、PHSとか言う、お外でも通信できる器械をつけたものをくれました。 で、色々見てるうちに。お姉さんの裸の写真だとか、女しか無い部分の写真だとかが載っている所に出て。 「登録完了しました。サイト利用費○万円を請求します」 って。 で、慌てて、お兄ちゃんにお話したら 「法律上は払う必要は無いから。『契約』って勉強したよね? 決められた、書類などに書き込んだものが必要だよね? それから、パソコン利用のお約束は『お勉強に必要なこと。例えば、天気、ニュース、星、地図、料理、など』だったよね? お約束を守れない、悪い子にはお仕置だな。 パンツ脱いでお尻をお兄ちゃんに見せなさい」 って言ったの。 あたし、あかちゃんの時みたいに「お尻ペンペン」だと思ったら、 「子ども扱いしないで。ってこの間言っていたよね? オトナのお仕置するぞ。」 って、イキナリ舐めだしたの。お尻の谷間を。 それから片手で胸のふくらみを右や左、とさわりながら、もう片方の手でさっき舐めた場所を擦ったり、揉んだり。 校門に指をいれて来たのには驚いたけど、お仕置だから、って、自分に言い聞かせて。 そのうち、気が付いたら胸を触っていた手が、校門よりもう少し、前にある敏感なところを刺激しだしたの。 校門のほうは結構奥深くまで指が、前の穴も多分、日本位かなぁ? そのうち、両方とも出し入が始まって・・・・・・ なんだか。変になって来て、何にも考えられないし。・・・・・・ 脚の間が、引き裂かれるように痛くて、気が付いたの。 あたし、脚をなけ出して座っているお兄ちゃんに抱かれていました。 胸に顔を埋めるようにして、お兄ちゃんのお腹の両側に両足を広げて、お兄ちゃんの太腿の上に座って。 そして。 お兄ちゃんの太くて硬くて熱いモノが、あたしのお腹の中に入ってます。 ボーっとした頭で・・・・・ 嫌?だったけど。でも。お兄ちゃんだし。 そういえば。こういう事は夫婦とかがやるんだっけ。 だったら、お兄ちゃんのオヨメサンになれるのかな?でも20歳でしょ?親が反対でも結婚できるの。 子どもが出来る?でも生理はまだ来ていないし。そういえば。整理の前に、初めての経験? とか思っているうちに、お腹の中に何かが勢い良く入ってきました。「どくん どくん」と波を打って。。。。。。 でも、その、お仕置きは、それだけでは終わらなかったのです。 よくは覚えていませんが、ある部分、契約としては不正なのですが。 「お兄ちゃんに、処女をささげること」 「十分反省するまでは、お仕置きは続けられる事」 などの約束が「レポート用紙数枚」と「DVDのビデオでの記録」になっています。 服や格好から、あの日、誘導されて。 だから、あたしは、お兄ちゃんのオモチャです。着せ替え人形です。
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337 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 32 55 ID Z6GQpGDu 「GJ!!いやぁ~、素晴らしい妹萌えだった!!感動した!!」 キモ姉&キモウトスレの神作品を読み終えた俺は部屋で一人呟く。 だが現実は厳しい。俺には姉もいなければ妹もいない。 なんとなく勢いで椅子から立ち上がり、某アニメ風に叫んでみる。 「この世界に宇宙人、未来人、超能力者、異世界人の妹がいたら今すぐ俺の所へ来い!以上!」 部屋に俺の大声が虚しく響く。余計に気分が落ち込んだ。 「はぁ、もう寝るか……」 そう言って俺はパソコンの電源を切り、ベッドに潜り込んだ。 「……んぅ、今何時だ……?」 今日は珍しく目覚ましが鳴る前に起きられたようだ。 しかし少々早く起きてしまったようである。 着替えて朝食をとる時間を合わせても十分に時間が余る。 体がやけに重いし、これは二度寝するかな。 そう思ってもう一度布団を被ろうとしたときに俺は初めて気付いた。 俺の両隣、そして背中に覆い被さってすやすやと寝息を立てているこの三人の女どもは一体誰だ? まさか泥棒か?いや、泥棒が盗みに入った部屋でぐっすりと眠るわけがない。 そんなドジッ子怪盗三姉妹がいたらぜひアニメ化して放送して欲しいものである。 などとくだらないことを考えているうちに俺の左腕にしがみ付いている女の子が目を覚ましてしまった。 「……んみゅ?おはよぉ、お兄ちゃん!」 寝ぼけ眼を擦りながら発したそのセリフに俺の体に電撃が走った。 お、お、「お兄ちゃん」だとおおおおおおおおっ?! 待て、落ち着け。KOOLになるんだ俺。 いいか、俺に妹なんぞ存在しない。 だから今俺の目の前に存在しているこの少女は俺の妹でも何でもない。おk? あれだ、きっとこれは夢だ。うん、そうに決まっている。 そうと決まったらもう一度寝直すか。 「おはよう、兄。これは夢ではない。紛れもない現実」 いつの間にか目を覚ましていた右側の女の子が至極冷静に話しかけてきた。 黙れ!!完全に目が覚めちまっただろうが!! 大体朝起きていきなりこんな状況になってたら落ち着けるわけねーだろ!! 誰だよお前ら?!俺に朝「おはよう♪」なんて言う妹なんざ存在しないんだよ!! 「落ち着いてくださいよ、兄さん。 朝から大きな声で怒鳴ると非常識な奴だとご近所の方々に思われてしまいますよ?」 うるせぇ!!そういうお前も人の腰に手を回しながらしれっと話してるんじゃねぇ!! あっ、コラ、変なところ触るな!!そこいじっちゃらめぇ!! 「あーーーーーーーーーーーっ!!一体お前らは何なんだーーーーーーーーーっ?!」 朝の閑静な住宅街に少年の悲鳴が木霊した…… 338 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 35 14 ID Z6GQpGDu 「……オホン、つまりだ。君等は正真正銘俺の妹達だと?」 あれからとりあえず落ち着いて彼女達の話を聞いて見たところ彼女達は俺の『妹』らしい。 いやぁ、泥棒か何かじゃなくて本当によかったよ。 ってやっぱりよくない!いきなりそんなこと言われて信じられるか! 「全く兄さんの疑り深い性格には困りましたね。もう少し心を広く持つと人生が楽しくなると思いますよ?」 肩をすくめながら中性的な顔立ちの少女がやれやれと言いたげな顔で溜息を吐いた。 こいつの仕草はなんだか腹立つな。 「ならばもう一度説明する」 三人の中でもっとも静かな少女が話し始める。 その端正な顔からは感情の揺れというものがほとんど見受けられない。 「兄の両親は兄が3歳のときにUFOに遭遇し、実験体として連れ去られた」 あれか?いわゆるアブダクションとかいうやつか? 「そう。そしてその際に行われた地球人との交配実験によって生まれたのが私『ソラ』。 私は宇宙人と呼ばれる種族と人類の間に生まれたハーフ。 よってあなたの妹と定義されることになる」 でもはっきりってちょっと変わった地球人の女の子にしか見えないんだが。 証拠とかないの? 「兄がそこまで言うのなら……分かった。窓の外を見て」 言われるがままに窓の外を覗くと空が超巨大なUFOに覆われている。 怪しく緑色に発光しながらこの町を見下ろしている。 何だあれはーーーー?! 「私がやってきた母船。今からあれでこの星にレーザー砲を撃つ。標的はあの大きなビルでいい?」 オーケー、分かった分かった。 分かったからそんな物騒な真似はやめてください。いや、ホントに。 「……残念。この星を征服して兄にプレゼントしたかったのに」 残念じゃねーよ。インデペ○デンス・デイじゃないんだから。 それに俺はあんまり支配欲とかないからもらっても迷惑なだけだし。 まぁ、よく考えたらその尋常じゃない長さの髪の毛も銀色っていう明らかに人間離れした色だしな。 俺よりも年下のはずなのに背が俺と同じかそれより高いし。 だが体の起伏はほとんどないな……宇宙人の方は退化しているのか? ところで一つ聞きたい。 その……したのはどっちだ? 「兄の父。父は非常に好奇心が強く、実験に非常に協力的だったと聞いている」 親父……エロゲじゃないんだから異種間SEXなんかしてんじゃねぇよ。 頭痛くなってきた…… 339 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 35 57 ID Z6GQpGDu 「やはり兄は私のことを受け入れられない? 私は完全な地球人ではないし、うまく意思の疎通を図ることもできない。 でも私はずっと兄に会いたかった。どうか傍に居させて欲しい……」 うわ、さっきまで無表情だったのに泣きそうになってやがる。 黒曜石のように黒々と輝く大きな目に涙が溜まっていく。 「ち、違うって!まぁ、確かに最初はちょっとビックリしたけど俺だってソラに会えて嬉しいよ」 「本当?なら抱きしめて」 ソラは上目遣いでこちらを見つめてくる。それは反則だろう。 「えぇっ?!そんなこといきなり言われても……」 「やはり兄は私の存在を拒否している……」 サラはどんよりとしたオーラを背負って床に『の』の字を書き始めた。 一体どこでそんなくだらないことを覚えた? こいつ本当に半宇宙人か? 「わ、わかった!!これでいいんだろ、これで?!」 慌ててサラを抱きしめる。 やっぱり半分が人間じゃなくてもあったかいんだな。 あ、少し嬉しそうだ。 「兄は私のこと好き?」 サラが恐ろしく真剣な目で見てくる。少し恐い…… 「あ、ああ、好きだぞ。いやー、可愛い妹ができて嬉しいなー」 どっちかというと面倒な妹ができてしまったなという思いの方が強いのが本音である。 「なら『きす』をしてほしい。この星では愛し合う者達は互いに唇をくっつけ合うものだと事前に学習している」 急に真顔で何を言いやがりますかねこの半宇宙人は。 「何でそうなる!?可愛いと言っただけだろ!!」 「照れなくていい。さぁ、私に身を委ねて……」 恐ろしいほどの真顔で迫り来るサラ。 宇宙人の会話はこんなに強引なのだろうか? だがいくら彼女が美人の部類に入り、種族が違うとはいえ妹。 ここはとりあえず逃げなくては……ってあれ?体が動かないぞ?! 「おい、サラ!お前なんかしただろ!!」 「……愛の力を使っただけ」 人の体を動けなくして無理矢理キスしようとするのは愛の力って呼びませんよ!! 思いっきり目ぇ逸らしてるし!! お、おい!このままだと本当に唇がくっついちまうぞ?! あ、でも柔らかそう……じゃなくて!! 誰か助けてー!! 340 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 36 47 ID Z6GQpGDu 「はい。いちゃつくのはそこまでですよ、姉さん?」 さっきの中性的な少女が手から炎のようなものを出してサラを止める。 ありがとう!!さっきはいろいろ失礼なこと言って悪かったな。 「チッ、いいところだったのに……」 恐ッ?!こいつ無表情に見えるけど本当は感情豊かなんじゃないのか? 「さて、話が大分脱線してしまいましたがここからは私『杏樹』が説明させてもらいます。 宇宙人に拉致されたものの、記憶を消される程度で無事地球に戻って来られた両親達。 しかし、宇宙人の実験の影響により二人には超能力に目覚めてしまったんです。 実にお約束通りの展開だと思いませんか?」 あっさりと重大な事実を物語風に話すな。 あと顔が近い。息を吹きかけるな。 「これは失礼しました。さて、話を戻しましょう。 超能力に目覚めた両親の間に子供が生まれました。 ですが驚くことにその子供も超能力を持っていたのです。 しかも両親よりもずっと強い力を」 それがお前ってわけか。 「はい。証拠なら先ほど見せた通りです」 そういって手から灼熱の炎を噴出させる杏樹。 先ほどまで黒かった髪の毛の色も燃えるような深紅に変化している。 マジでバトル物の漫画だなこりゃ。 って熱い熱い!!早くやめてくれ!!家具に燃え移る!! 「これで納得していただけましたか兄さん?」 炎が消えると同時に髪の毛の色も元の黒に戻っていく。 「お前が超能力者だってのは分かった。だが俺が記憶している限りお袋が妊娠していて子供を産んだという記憶はないぞ?」 「いい所に気付きましたね、兄さん。 実は兄さんは覚えていないだけで母さんが妊娠している姿や、生まれたばかりの私の姿を見ているんです。 しかし、記憶がないのは何故か?それは記憶を消されているからです」 何でだ?俺が覚えていたって別に困ることでもなかろうに。 「実はこの世界には別の世界から侵入してきた異形の怪物達が存在しているのです。 彼らには近代兵器が効かず、対抗できるのは超能力に目覚めた者達の持つ異能の力のみ。 超能力を持つ者しか気付けないその化け物達相手に私達は来る日も来る日も戦い続けました。 しかし、超能力を持たない幼い兄さんを戦いに巻き込みたくない。 そう思った私達は兄さんから記憶を消して、安全なところに避難させていたというわけです」 何だ、その超展開は。正直どこぞの三流SFとしか思えんぞ。 しかし、それなら親父達がめったに帰ってこないで俺を婆ちゃんの家に預けっぱなしだったのも頷けるな。 「化け物と戦い続ける地獄のような日々。 それでも平和になった世界でもう一度兄さんに逢いたいという思いが私を支えてくれました。 そして今私はここにいます。愛する兄さんのもとに」 杏樹が柔らかく微笑む。 341 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 37 34 ID Z6GQpGDu しかしその微笑の裏で一体どれだけ苦しんできたのだろうか。 急にこの少女のことが愛しく感じられてきた。 「杏樹……」 俺は杏樹を強く抱きしめる。 短めの髪がサラサラと揺れて、女の子特有のいい匂いが鼻腔をくすぐる。 数え切れないほどの化け物たちと戦ってきたという杏樹。 だがとてもそうは思えないほどに彼女の体は細く華奢だった。 「あっ……兄さん、嬉しいです」 幸せそうに頬を薄く染める杏樹。 やっぱり杏樹も美人だ。 宝塚の男性役のような中性的な顔は大理石に彫られた天使のように白く美しい。 しかもスタイル抜群だ。胸も意外とあるし。 「ごめんな、杏樹。お前のためなら何でもしてやるから」 「本当……ですか?」 真剣な顔で俺を見上げる杏樹。 「ああ。お前の言うことなら何でも叶えてやるよ」 「兄さん……では兄さんの硬く猛ったデカマラで私の子宮口をぶち抜いて、ぷりぷりザーミルクを子宮の一番奥の奥で思いっきりぶちまけてください」 「だが断る」 一瞬でも本気にしてしまった俺の感動を返せこの淫乱。 「えぇ~、別にいいじゃないですか。膣出しの一発や二発くらい。兄さんも私も気持ちよくて一石二鳥ですよ?」 可愛らしく口を尖らせて言ってるんじゃねぇぞこのドスケベが。 「黙れ変態。大体お前妹だろうが」 「『あぁん、ダメです兄さん!私達兄妹なのに……でも感じちゃうっ!!ビクビクッ』っていうのが最高なんじゃないですか!」 「大声で恥ずかしいことを力説すんな、この腐れビッチ!!」 ダメだこいつ。頭ん中でピンクのお花畑が咲き誇ってやがる。 朝一で病院に連れて行くしかないなこりゃ。 342 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 39 32 ID Z6GQpGDu 「あー!!お姉ちゃん達ばっかお兄ちゃんにくっついてずるいー!今度はわたしの番なのーっ!!」 「あぁん、兄さんのいけずぅ」 小柄で栗色の髪をツインテールに纏めた少女が変態超能力女を突き飛ばす。 よくやったぞ、最後の妹思わしき人物よ。 これ以上この妄想爆走全開の下ネタトークを聞いていれば耳が腐るところだった。 杏樹を突き飛ばした少女の外見はかなり幼く見える。一見小学生と間違えてしまいそうだ。 だがそれに反比例して胸はダイナマイツな感じでたわわに実っている。 そんな少女が体のラインがくっきりと出てしまうオレンジ色のボディースーツを着ているのだ。 正直たまりません。これが俗に言う「ロリ巨乳」というやつか? 「わたしはこの時代からずーっとずっと先の未来からやってきたのっ!すごいでしょー、えへへ」 ほう、未来人ねぇ。それで?どうせまたトンデモ話になるんだろ? さっさと証拠を見せてくれ。 「いいよー。ジャーン!!」 元気よく彼女が取り出したのはおもちゃの銃のようなもの。 日曜の朝にやってる少女向けアニメに出てくるヒロイン達が使っていそうな可愛らしいデザインだ。 「えっと……これがその証拠?」 「うん、そうだよー」 おいおい、期待外れだぜお嬢ちゃん。 前の二人はスケールのでかいもんを見せてくれたから納得できたがこれじゃあちょっとねぇ…… ん?窓を開けて何をしてるのかな? 「撃ってもいい場所を探してるの!ここでいいかな……えいっ!」 そういって彼女が銃の引き金を引いた瞬間閃光が放たれた。 そして俺の家の隣にある空き地が突然大爆発。 ……今何が起きたのかお兄ちゃんに説明してくれるかなー? 「えへへー、光線銃!パワー全開ならこの家も一発で灰にできるよー」 うん、君が未来人ってことはよーくわかった。 わかったからとりあえずその物騒な銃をしまってくれ。 そしたら平和的にお話で説明といこうじゃないか。 「うん、わたしがんばって説明するよー! えっとー、おとーさんとおかーさんがすごい超能力者だったって言うのは聞いたよね? そんな力を持った人間達をむざむざ寿命で失うのは惜しいって考えた人ちがいるの。 それでその人たちは人類の進化と発展に役立てようとおとーさん達を冷凍保存しちゃったの」 なんと。寿命で死なせてくれないってのも結構きついな。 よかった俺超能力者とかじゃなくて。 「そして遠い未来でついにおとーさん達のDNAを解析することに成功したの。 それによって進化に行き詰っていた人類はその壁を乗り越えて大きな発展を遂げたの。 すごいでしょー?」 ほー、そりゃよかった。 で、なんで君が俺の妹なわけさ? 親父とお袋は氷付けにされて解剖されちまったんだろ? 「ぶー、お話はちゃんと最後まで聞くのー! おとーさんとおかーさんは必ず生き返らせることを条件に冷凍保存されたの。 未来の進んだ技術力によって何一つ変わりなく遠い未来の地に蘇ったおとーさん達。 そして喜びのあまりそのまま激しく愛し合っちゃったの!!キャー!! その結果生まれたのがわたし『ミサキ」。愛の力は偉大だねっ!!」 全然偉大じゃねぇよ。未来にわざわざ復活して何やってんだあいつら。 「……でもわたしはずっと寂しかった。 遥か過去から蘇り、人類に大きな進歩をもたらした夫婦。 彼らから生まれた子供としてわたしはいつも特別扱いだった。 でもわたしは杏樹お姉ちゃんと違ってそこまでの力を持ってなかった。 だから周りの期待に応えられなかった。 『本当のわたし』の価値を見出してくれる人なんて誰もいなかった……」 ふざけた説明をしながらも花のような笑顔を咲かせていたクルミ。 その彼女が突然表情を変えて話しだす。 俯いて表情はよく見えないがひどく……寂しそうに見えた。 「でもね、おとーさんとおかーさんに聞いたの。 ミサキにはお兄ちゃんがいるって。 元いた時代に一人残してきてしまった何の力も持たない普通の息子がいるんだって。 そのことを聞いたときね、わたしすごく嬉しかったの。 だってわたしはずっと一人ぼっちだと思っていたから」 その時俺は見てしまった。 微笑みながら話すミサキ。その目にはうっすらと光る物が…… 「わたしのお兄ちゃんってどんな人なんだろう?わたしが会いに行ったら喜んでくれるかな? わたしずっとそんなことばかり考えてた。 だからもう我慢できなくってお兄ちゃんの時代に来ちゃったの。 ……お兄ちゃん、ミサキが来て嫌?」 ぽろぽろと涙をこぼしながらも俺を真剣に見つめてくる妹。 「……ったくこの馬鹿野郎が」 「はわわっ、お、お兄ちゃん?!」 小柄な彼女の体はすっぽりと俺の腕の中に納まった。 こんな小さい体で一人孤独に耐えていたのか。 「嫌なわけないだろ。俺でよかったらいつでも会いに来ていいんだからな」 「お兄ちゃん……っ!!」 ミサキが渾身の力で俺を抱き返してくる。 うん、こんなことで彼女の寂しさが埋まるのならばお安い御用さ。 344 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 41 06 ID Z6GQpGDu 「……んっ……はふぅ……」 ……ん?なんだか妹の様子がおかしいぞ? 俺の体に小柄ながらも起伏激しい体をやたら擦り付けているような気がするんですけど。 ミサキの顔を見てみると頬は赤く染まり、呼吸を荒げ、目は情欲に濡れて妖しく光っている。 何これどうなってんのさ? 「お兄ちゃぁん……ね?ミサキと赤ちゃんつくろ?」 ……全世界が停止した、と言う表現はまさにこのような状況のときに使うのだろう。 「HAHAHA、オニイチャンみさきノイッタコトヨクキコエナカッタナー」 「だからわたしと子供つくろうって言ったの。ねー、いいでしょ~?」 いいわけあるかい、ボケッ!! あと胸をそんなに押し付けられると妹と言えどなんだか変な気分に鳴ってしまうじゃないか。 「未来じゃねー、二親等までだったら結婚できるようになってるところもあるんだよー。 だからわたしとお兄ちゃんが結婚してものーぷろぶれむなのっ!!キャーーー!!!」 何を考えているんだ未来人。 これから先人類がダメな方向へ向かっていくのが分かってしまって俺はがっかりだよ。 「だからお兄ちゃんのせぇしたっくさん搾り取っちゃうからね!! ジャーン!!秘密道具『スーパーバイアグラ』!! 飲めばたとえ悟りを開いた賢者さんでも一発でレイプ魔に変身しちゃうぐらいの強烈な媚薬なんだよー」 なんの捻りもない上に、ネーミングセンスも皆無の未来アイテムだな。 「んっ……お兄ふぁん……」 ミサキはその得体の知れない薬を口に含むと俺に口移ししようと顔を近づけてきた。 これはいかん。まさか妹を犯すなど一般人として会ってはならないことだ。 近親相姦ダメ、ゼッタイ。何かのキャッチコピーに似てるな。 とにかくミサキを引き剥がそうとするが全く離れない。 可愛い顔してなんという馬鹿力だ。 親父達から能力を受け継がなかったとか言ってるが本当か? ええい、このままでは本当にキスしてしまう。 もうこの際誰でもいい!俺を助けてくれーーーーーーーっ!!! 「とうっ」 「ゲフッ!!」 俺のファーストキスが実の兄の子供をねだる妹によって無情にも奪われそうになった瞬間。 それは起こった。 345 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 43 08 ID Z6GQpGDu なんとソラの豪腕がミサキの腹に実にいい角度で深々と突き刺さっているではないか。 ミサキの体が思いっきり『く』の字になって、痙攣してるし。 ソラ、俺と一緒に世界を目指してみないか? 「兄と一緒ならどこまでも……これは処分する」 ソラが顔を薄く染めながらボディーブローを食らった際にミサキが吐き出した錠剤を摘む。 すると錠剤が光の粒子になって消えていくではないか。 こんな芸当までできるのか。やっぱ宇宙人怖ぇ…… っておいおい、助けてくれとは言ったがさすがに妹に対してやりすぎじゃないのか? 「兄の意思を無視して無理やり行為に及ぼうとするなど到底許されることではない」 あの、かっこよく言ってるけどさっき君も同じこと俺にしようとしてたよね? 「……あれには愛があった」 これっぽちもねぇよ!!しかもまた目ぇ逸らしてるじゃねーか!! 「うぅ~、ソラお姉ちゃんひどいよっ!このままうまく行けばお兄ちゃんの子供を妊娠できたのにぃ!」 あの強烈の一言に尽きるボディーブローを食らったのにもう回復しただと?! ええいっ、未来の人間は化け物かっ?! 本当は親父達からすげぇ力受け継いでるだろ。いや、絶対に。 「ダメ。兄の精子は溢れんばかりに私の胎内へと注がれるべき」 おい、どさくさに紛れて何言ってるんだお前。 「それは違いますね。兄さんの精液を受け止められるのはこの私ただ一人なんです。 兄さんが望むならどんなプレイだってバッチコイですよ! あぁ……兄さんそこは違う穴ですよぅ……ダメッ!!そんなとこいじいじしちゃらめぇ!!」 人を勝手に重度の変態にするな。 体をくねくねとよじらせながら黙って妄想していればよかったものを。 お前みたいな変態まで入ってくると余計に話がこじれるだろうが。 「お、お兄ちゃんがどうしてもって言うならボテ腹SEXしてあげてもいいんだからねっ!!」 絶対にしないから安心しろ。 というか何故急にツンデレになってるんだ。軸のぶれてるキャラほど悲惨なものはないぞ。 「「「誰っ?!」」」 「はっ?」 さっきまで俺の精子を巡って争っていた三人が突然同時にこちらを振り向いた。 お前ら本当は仲良いんじゃないのか? 「「「誰を選ぶのっ?!」」」 「え、えっと……全員?」 「「「ダメッ!!」」」 「みんなで幸せ、なんて言い訳は通用しない。私達は皆『兄』だけを求めている」 俺の目をじっと見据えるサラ。 その大きく黒々と輝く瞳の中に滑稽な姿をした俺が映っている。 「その通りです。私達は兄さんの全ての愛情が欲しい。それがたとえ姉妹だろうと他の誰かに向くのは許せないし、認められません」 ニヤニヤと笑ってばかりいた杏樹の顔が今は真剣そのものだ。 それゆえに彼女の思いが痛いほどに伝わってくる。 「わたし達にはお兄ちゃんしかいないの。お兄ちゃん以外の誰かじゃダメなの。だからお願い……」 まだ幼さの残る顔を悲痛に歪めるミサキ。 必死に俺に助けを求めるその姿は見ていて心が痛む。 346 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 43 45 ID Z6GQpGDu 「「「『私』を選んで」」」 真剣な顔つきのまま三人はそう言ったきり黙り込んでしまった。 そりゃ少し、いや、かなり問題はあるけどみんな俺にはもったいないくらい可愛い妹だ。 しかも全員がその境遇ゆえの巨大な孤独に耐え切れずに俺を求めている。 俺よりも幼い妹達が背負ってきた重荷は一体どれだけの重さなのか俺には量りしれない。 ここで妹達の願いを聞きいれ、手を差し伸べてやる。 それが兄として当然の義務なのかもしれない。 でも、俺にはできない。どうしてもできない理由があるんだ。 だって俺は、俺は――――!! 「ゴメンッ!!俺、実は姉萌えなんだーーーーーーっ!!!」 再び全世界が停止した。主に三人の妹達の中で。 「そ、そんなはずはない。だって私達は兄に呼ばれ、ここにいるのだから」 「そ、そうですよ!!昨夜思いっきり言ってたじゃないですか?!」 「どどどどーいうことなの、お兄ちゃん?!まさかわたしからお兄ちゃんを奪おうとしている泥棒猫さんがいるの?!」 三者三様に驚く妹達。あのサラさえも動揺を隠せないとは相当驚いたみたいだな。 杏樹も細い切れ長の目をこれでもかというほど開いてるし。 それから未来でもやっぱり泥棒猫って言うのかミサキ? 「確かに俺が昨日そのような発言をしたことは認める。だがな、それには理由があるんだ」 ずずいっ、という効果音が出そうなほどに顔を近づけてくる三姉妹。 俺は妹達に何故あのような発言をしたのかを語り始めた…… 「いや~、実は昨日キモ姉&キモウトスレの妹萌えの神作品を読んじまってな。 本当は姉萌えなのに作品の完成度の高さのあまり、つい妹欲しい発言をしてしまったわけだ。 まぁ、若気のいたりってことで一つ多めに見てちょんまげ。HAHAHA!! ……おい、ちょっと待て。冷静に話し合おうじゃないか。 杏樹は手から炎を出さない。ミサキはその光線銃しまって。 あの、サラさん?なんだか俺の体がだんだん光の粒になって消えてる気がするんだけdアッー!!」 347 お兄ちゃんSOS! sage 2008/09/26(金) 01 44 23 ID Z6GQpGDu 親愛なる両親様へ 私は今新しくできた三人の妹達と元気にやっています。 皆私にはもったいないくらいの良くできた妹だと思います。 この家に4人で住むようになってから近所でも評判の美人三姉妹と呼ばれているようで私も鼻が高いです。 ちなみに私も「いたいけな妹達を弄んでいる鬼畜兄貴」として名高いです。 たぶん妹達があちこちであらぬ噂か妄想を垂れ流しているせいですね。困ったものです。 学業の方も心配ありません。 いつの間にか妹達は同じ学校の同じ学年の同じクラスに転入してました。 明らかに年が違うのに同学年とはなんと頭のいい妹達でしょうか。兄としての威厳が。 私の席も見事に妹達に囲まれてしまい、話しかけてくる女子はなぜか一人もいなくなってしまいました。 登下校は私の腕の取り合い、昼食も誰が私にアーンをさせるかでちょっとしたケンカをしています。 ええ、ご心配なく。学校が瓦礫の山となる程度の可愛いものです。 それに学校のみんながとても優しいので大丈夫です。 学校を壊して、それをすぐに再構成した時もまるで記憶になかったかのように振舞ってくれるのです。 家に帰ると妹達がこぞって私のために夕食を作ってくれます。兄冥利に尽きますね。 妹達が自分の唾液やら血液やら愛液やらを恍惚とした表情で鍋に入れていく世にも恐ろしい光景などは目にしていません。 そういえば妹達は少し間の抜けたところがあるようです。 塩と砂糖と間違ったのでしょう。 この前妹達が睡眠薬のようなものと媚薬のようなものを私の分の料理にいれようとしていました。 運良くそのことに気付いた私が妹の上を掴んで止めると妹達は 「「「あっ、手が滑っちゃった。テヘッ♪」」」 と言いました。全く、うっかり屋さんですね。 私がちゃんと傍にいて見張ってやらねばと強く強く思います あと妹達は寂しがり屋のようです。 風呂に入る時や就寝の際は必ず一緒にしたがります。 その際に兄妹の域を越えたコミュニーケーションを取ろうとしてくるのが玉に瑕です。 この前はベッドに縛り付けられてお馬さんごっこをさせられそうになりました。 最近のお馬さんごっこはさて ① 互いに全裸になる ② 男の子が仰向けに寝ているところを女の子が陰部に当たる場所に腰を下ろす ③ そのまま体を激しく揺らす というものだそうです。 最近の若者の流行にはついていけないとこの年ながら思ってしまいました。 さて、長々と書き連ねてしまいましたが、私はお二人に言いたいことがあります。 妹達がこのような性格に育ってしまったのはたぶん、いや、100%あなた達のせいだと思います。 要するに何が言いたいのかというと、 さっさと帰ってきてそのツラ5発くらいブン殴らせろってことだよこのクソ親父とクソババァ!! ということです。 お返事を首を長くして待ってます。 あなた達の息子より P.S. 最近よく物が歪んで見えるような気がします。 どういうものかというと歪んで見える所に裂け目のようなものが見えるのです。 その裂け目の向こうから可愛い女の子が 「兄貴兄貴兄貴アニキアニキアニキアニキあにきあにきあにきあにきあにき………… 待っててね。もうすぐ会いに行くから……ウフフフフフフフフフフフフフ…………」 と呟きながら微笑み、こちらをじっと見ている、というものなのですが…… 私の幻覚に決まってますよね。 ところでお聞きしたいのですが今お二人はどちらにいらっしゃるのですか? …………まさか異世界なんてことないよね?!
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"傷全員からお兄ちゃんと呼ばれる" という偉業を成し遂げた戸田さんに対する敬称。 一応リアルお兄ちゃんでもあるのだが。 名前 コメント
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356 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21 20 21.89 ID KUVP2IAz ---連れて行かないで! 泣き叫ぶ女の子の声が聞こえる ---いやだよ!なんで一緒に行けないよ!おかしいよ! 女の子の声に応えようと手を伸ばそうとする男の子。 ---ダメ しかし、その手も大人によって阻まれる。その時まで最も信頼していた大人に…。 それでも男の子は手を伸ばす。離したくないから。 それでも女の子は叫び続ける。何よりも大切だから。 しかし、無力な子供たちは大切な人と離れ離れになった。 357 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21 20 57.16 ID KUVP2IAz 6月。あまり好む人が少ないと言われている梅雨の時期だ。 俺、三神 和馬も梅雨を嫌う雨アンチの一人だ。雨の日となるとロクな事がない。 まず、濡れる、冷たい。続いて外に出られない、ダルい。極めつけはやる気が出ない、勉強なんざやってらんねー。 「そうして今日の俺は勉強をしないのだった・・・」 「お前が勉強しないのはいつもの事だろが!」 気持ちいいくらいパコンという音が頭上で響く。そんな俺の頭を丸めた教科書で叩くのは英語の教師、長島茂だ。 コイツの名前的には体育の教師が一番合ってるような気がするのだがよりにもよって一番やっちゃいけなさそうな英語の担当だ。 「晴れてる日にはまだ頑張ってるっつーの!」 「そういって昨日はカンカンに晴れてたけど"あじぃ~やるきしねぇ~"とか言ってたのはどこのどいつだ!」 「義雄だよ義雄!」 そういってクラスでも1番勉強が出来る田中義雄を指さす。どうも驚いたような感じなのだが牛乳瓶の底のように分厚いメガネを掛けられては真相が判りづらい。 「嘘つけ!一生懸命勉強している田中がそんな事言う訳無いだろ!」 「でもこないだテストの点数田中よりも良かったぜ」 「保健体育と音楽だけ学年トップだもんなお前」 「その言い方だとやたら性教育だけ頑張ってるみたいに聞こえるよな」 周りから冷やかしが入る。ちょっとは運動が出来るって所をアピールしろ! 「先生!三神くんは置いといて授業を続けてください!僕は○×大学に行くために少しでも多く勉強しなければいけないんです!」 勉強を頑張る義雄はピンッと手を挙げて長島を急かす。彼の手の挙げ方は美しいあれこそまさに真の挙手と言えるだろう。 後は体型と髪型と他人と接する態度とメガネと私服のセンスさえ頑張れば完璧だ。少なくとも俺はそう思う。 「ふむ、では授業を続けよう。では32ページの英文を三神、読んでくれ」 「I Like sex!Julian come on My Room!」 「三神!教科書にそんな卑猥な文章が出てくる訳ないだろうが!いい加減にしろ!」 「「どうもありがとうございましたー」」 ---こうして馬鹿なりに楽しい時間が過ぎていく。 358 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21 21 36.35 ID KUVP2IAz 放課後、俺は少し友達と話すと比較的早く帰宅した。ちなみに俺の所属している軽音部は雨のためお休みだ。 正直もうちょっと友達と話していたかったが、妹からのメールが50通、着信履歴が23件もあればとっとと帰らなくてはいけない。 足取りも重く、俺は玄関のドアを開けた。 「ただいm!?」 「兄さん!!」 帰宅の挨拶もロクに出来ないまま妹が俺の胸に飛び込んできた。 「どこに行ってたんですか!?心配したんですよ!メールしても電話しても出ないし…。今日は部活もなかったんでしょう!?だったらもっと早く帰ってこれるはずですよね!?それに…」 マシンガンのようにズババババッとなんか言ってるのは俺の妹の三神 渚。俺の一つ下の高校1年生。 容姿端麗であり、学校での口数があまり多くないことから日本では絶滅したはずの大和撫子が我が校いると男子から絶大な人気を誇っている。 そんな大和撫子さんの家での姿はかなりのお節介。口数は学校にいるときの10倍じゃ足りない量。常に俺にひっついて行動と渚を崇めている男どもが聞いたら卒倒するような言動の数々を当然のようにこなしている。 血の繋がりのない義妹だからこそこんなことができるのかねぇ。 「兄さんが訳のわからない女に誘惑されたらどうするんですか!今の時代女は肉食で…」 「解らんけど解ったから家に入れさせろ!後腹減ったから飯な!」 「ハイ!」 飯という言葉で中に入ることに成功する。魔法の言葉でおいしい食事がポポポポーン。 「でもご飯食べながらちゃんと説明してもらいますからね!」 とは簡単にはいかないようだ。 ---ふふふ、もうすぐあの家に戻れる。 お母さんとお父さんにはホント苦労させられたなぁ。でももう大丈夫!待っててね…。 ---お兄ちゃん! 359 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21 22 26.69 ID KUVP2IAz 現在三神家はお食事中。俺の目の前には冷やしうどんと冷しゃぶ。それに味噌汁と夏っぽい食事が並んでいる。 我が家の食事は全て渚が担当しているのだが、渚は人気以上に料理の腕も相当なものでよく友人が家に遊びに来たがる。 しかし、渚は他人に料理を振る舞うのが嫌なのか料理を食べたいといってきた友人にいい顔しないし、基本断っている。そんな訳で俺はときおり学校中の男から殺意を向けられたりするのである。 とまぁ連中いわく"悪魔に魂を売ってでも食べたい"という程の料理を毎日食べられる俺はなかなかの幸せものなのかなーとか思っている。 …んだけど。 「兄さん!どうして遅くなったんですか!なぜ電話に出てくれないんですか!?まさか悪い魔女に捕まったんじゃ…」 とこんな感じに質問と言う名の尋問をくらっている。つかなんだよ悪い魔女って…。 「クラスの連中とダベってたんだよ。電話に出れなかったのはマナーにしたまま放っといたから気づかなかったんだよ」 「次からは授業が終わったらちゃんとマナー解除してくださいよ!兄さんの声を聞かないと私不安で不安で…」 「…お前病院行ってこいよ」 そんな事を言いつつ俺は目の前の豚肉を啄く。ごま油ベースの渚オリジナルの冷しゃぶのタレを豚肉とうどんに絡ませ一気に啜る。 知人から譲って貰った讃岐うどんでこれをやる贅沢。讃岐うどんの喉越しって奴は食の完全試合だと思う。 「兄さん!変なこと言って誤魔化さないでください!それより変な魔女に絡まれたりとかはしてないんですね?」 「…お前の知り合いには魔女がいるのかよ」 「いますよ!もうその辺に兄さんを貶めようとする悪い魔女が!兄さんももっと自覚を持ってくださいよ。私心配で心配で・・・」 どうやらコイツはなんかしらの幻想を見ているみたいだ。まずはその幻想をぶち殺すぞ。 「まぁ魔女がいるいないはともかく飯食おうぜ。せっかく可愛くて料理上手な最愛の妹の料理が冷めちまうだろ」 「可愛くて最愛って…ハイ♪お食事にしましょう!」 と収集がつかなくなった場合は渚を褒めまくればいいってのは長年の付き合いで解っている。 今日の飯は初めから冷めているものってのを忘れてくれるくらいに喜んでくれるのだ。 そんな時、三神家の電話が鳴る。 「あっ私取るますね」 普段使わない家電を取る渚。 特に興味なさそうに飯を食いながら呑気にテレビを見る俺。 最近の番組はやたら工場とかに取材に行って工程を紹介する企画が多いような気がする。 確かにあの番組はナレーションやビジネスライクネタ等で面白いが、別のテレビ局で同じような企画を通すのってどうよって思ってしまう。 不景気で番組作る予算が削減されてるのかねぇとこの間まで気にしてなかったような事を思いつつうどんに箸を伸ばす。 しかし、渚が帰ってくるのが遅い。普通5分もすれば帰ってくるだろ…。 そんな事を考えてると渚が帰ってきた。何故か今にも泣きそうな顔をしている。 360 名前:和馬お兄ちゃんの妹さん達[sage] 投稿日:2011/12/17(土) 21 23 13.10 ID KUVP2IAz 「何かあったのか?」 「明日、お父さん帰ってくるみたいです」 「親父が…?」 三神家は親父、俺、渚の3人の家族だ。俺の母親は俺が幼稚園の時に離婚し、その後の再婚した渚の母親は俺が中学に入る前に息を引き取っている為、母親は存在しない。 因みに親父は単身赴任していてめったにこっちに帰ってこない。その親父が帰ってくることは盆休みや正月休暇等の長期休み以外だと何かあるということだ。 「それで…それで…」 渚は涙をこらえながら必死に何かを伝えようとしている。 「…お父さん、さ、再婚するみたいです。」 「へぇ~。別に悲しむ必要なくないか?家族増えるだけじゃん」 「でも、家族が増えるってことは兄さんと一緒にいる時間が減ってしまうって事で…」 「別に減らねーだろ。確かに初めは俺も相手の人と仲良くするために出来るだけ積極的に話しかけていくと思うけど慣れれば一緒だ」 「…兄さん」 ようやく渚の顔に笑顔が戻るやっぱりコイツには笑顔が一番だ。 コイツと一緒に今日は工場の工程を見ながら飯を食おう。 ---起きて、起きて 声が聴こえる。誰かが俺を起こそうとする声が… ---起きてよ。 今度は俺の体を揺すって起こそうとする。寝苦しさから俺はようやく重い瞼を開ける。 「ふぁあああ。おはよう渚」 「ん?私は渚じゃないよお兄ちゃん」 「…え?」 目の前には渚ではない謎の美少女が立っていた。 「…だれ…お前…?」 「もう!お兄ちゃんったら相変わらず朝に弱いんだから!千夏だよちーなーつー!お兄ちゃんの本当の妹だよ!」 「ちなつ…?千夏!?」 千夏…。彼女は俺が幼稚園の時に離婚した母親に引き取られた正真正銘俺と血の繋がった実の妹だった。
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「あ、あの、……」 そう言いかけてまた押し黙る。 何度か言葉をつなごうとして顔を上げるが、また伏せてしまう。こちらから見ていても気の毒になりそうなくらい顔が真っ赤になっている。 そんな動作を数度繰り返した後、意を決したように真剣な顔つきでこちらを見上げ、 「わ、私の、おおおお兄さんになってください!」 そう叫ぶと、また恥ずかしげに顔を伏せてしまった。 俺は、最初彼女の言ったことがよく理解できなかった。何度か頭の中で彼女のセリフを反芻した後、その意図するところを理解し、そしてその内容のあまりにも突拍子のなさに、 「は?」 俺は口をぽかーんと開けた状態で、その間抜け面をさらしたまま、彼女の前で固まっていた。 なぜ俺がこんなわけのわからない状況に巻き込まれてしまったのか、その訳を説明するためには昨日の朝に遡らなければならない。 その日の朝、そろそろ暖かくなりかけてきた初春の爽やかな空気の中で、ゆったりとした心地よいまどろみに溺れつつ、平日の睡眠不足を一気に取り戻そうと、俺は惰眠をむさぼっていた。 今日も今日とて貴重な休日である土曜日であるにもかかわらず、いつものように「市内の不思議探索」とかいう無駄な予定が入っているのだが、集合時間までは まだ余裕があるので、間に合うぐらいまでに起きればいいだろ、とりあえずぎりぎりまで寝ていようと、暖かな布団にくるまっていた。 そこへ毎朝恒例、我が家の生体目覚ましが、どたどたと騒音をたてて俺の部屋にやってきた。 「キョンくーん!」 叫ぶと同時に俺の腹の上にフライングボディプレスが敢行される。 「ぐえっ!」 その瞬間、息がつまり、俺はもんどり打って身体を折り曲げた。 「キョンくん、起きてっ!」 この生体目覚ましは、兄に強烈なダメージを与えただけでは飽き足らず、一気にとどめを刺そうとでもいうのか、さらに俺の腹の上で暴れまわっている。 俺はたまらず、 「おおいっ、やめろっ!起きた!もう起きたって!」 叫ぶと同時に妹の体を掴み、これ以上暴れさせないように固定した。 「なんだ、今日は休みだぞ、頼むからゆっくり寝かせてくれ。」 「ねえねえキョンくん、明日なにか用事ある?」 俺の言うことなどてんで無視を決め込んで、腹の上に乗ったまま、大きなどんぐりまなこでまじまじと俺の顔を覗きこんできた。相変わらずの童顔だ。まだ小学 生だから仕方がないともいえるのだが、しかしもう6年生だぞ、背も低いし、つるぺたの寸胴、仕草も低学年のガキの域を出ていない。同級生の中でもおそらく1、2を争うほどのちんちくりんなんじゃなかろうか。はたしてこいつは将来無事にきちんとした大人の身体に成長してくれるのだろうか。兄は心配だぞ。 寝起きの頭でボーっと考えていたところ、自分の問いかけに答える素振りがない兄に業を煮やした妹が、さらに腹の上で暴れてくる。 「ねえっ、キョンくんってば!!」 ごふっ。いくらちんちくりんで体重の軽い妹でも、これ以上腹の上で暴れられては俺の身が持たん。 「おい、俺の上で暴れるのはやめてくれ。吐きそうだ…」 「ねえ、キョンくんってば、明日は用事あるの!?」 やっぱり聞いてねえ、さらに暴れまわろうとする妹の行動を制しようと、俺は上半身を起こした。腹の上に乗っていた妹は、バランスを失って後ろ向きにころんと転がる。 「わかったわかった、別に日曜は何にも用事はないよ!暇だ、暇だ。」 ベッドの端っこに寝転がった妹は、その変な姿勢のまま、 「じゃあ明日はどこにも行かないでね!」 そう叫ぶや否や、ひょいっとベッドから降り、すたこらっと部屋から出て行った。 「おい、一体日曜に何が…」 問いかけが終わらぬうちに、妹の姿はもう見えない。 まったく、人の言うことはきちんと聞くように、あとできっちり教育してやらなきゃならんな。しかし明日はどこにも行くなって、何をたくらんでるんだ?どこかに遊びに連れて行けとでもいうんだろうか? まあ最近は妹の相手をしてやることも少なくなったし、少しは遊んでやるか。 その後、ハルヒ閣下指導による市内不思議探索に出かけ、規定時刻前に集合したにもかかわらず遅刻として罰金と称して全員分の喫茶店代をおごらされ、長門と 図書館で暇つぶしーの朝比奈さんと公園での散策デートを楽しんだりしーのしつつ、結局いつもどおりなんら成果を挙げることなくこの日も解散した。 その別れ際に、ハルヒが、 「キョン、明日はなにか用事あるの?」 いかにも明日も何か厄介なことに巻き込まれそうな感じで聞いてきたので、俺はあると答えたら、 「なんの用事があるのよ、それは団長たる私を差し置いて優先しなければならないような用事なの?」 なぜか突っかかってきたので、妹につきあわねばならないこと、最近は満足に相手をしてやっていないから妹も寂しい思いをしていることなど、多少の誇張や虚偽を交えて弁解した。正直二日連続でハルヒ閣下の気まぐれにつきあわされるのは嫌だからな。 「あ、そう。妹ちゃんの相手なら仕方がないわね。じゃあいいわ。」 とか言って、ハルヒはさっさと駅の方へ歩いていってしまった。えらくあっさり引き下がったものだな。 その日はそのまま帰宅し、飯食って風呂入って寝た。寝しなに妹がもう一度、明日はどこにも行かないよね、と確認してきたので、行かないよ、と答えたら満足して自分の部屋に戻っていった。結局、また明日なにをするのか聞かないうちに、妹は行ってしまった。 しょうがない、明日はあいつが満足するまでつきあってやるか、貴重な休みを連続して他人に振り回されるのはなんとも口惜しいが、まあハルヒと違って妹なら俺が行動をコントロールすることができそうだからな、今日のように無駄に疲れるようなこともないだろう。 翌朝、窓のカーテン越しにふりそそいでくる暖かな日差しを浴びつつ、柔らかな布団の中で徐々に眠りから覚醒状態に移行しようとしかけていたとき、俺は近くで誰かがなにか話しているのに気づいた。 「……だ寝てる……」 「……丈夫だよ、すぐ起き……」 まだ頭が完全に覚醒していなかったため、なにを話しているのか理解できず、また誰が話しているのかもわからなかった。 「…魔しちゃだめ……」 「…つもこうしたらキョンくん起き……」 ボーっとした頭で、複数の人間がいるというのはなんとなくわかった。誰だろうなあと考えていた矢先、 「キョンくーん、起きてっ!」 生体目覚ましが俺に向かって毎朝恒例のダイビングボディプレスをかましてきやがった。 「ぐおっ!」 腹部に激痛が走り、思わずうめき声を出す。 「キョンくん、起きてよ!」 そんな兄の窮状にかまわず、妹は俺の腹の上でいつものように暴れまわる。ここまではいつもの朝の風景だったのだが、そこに第三の人物が登場する。 「…ちゃん!だ、ダメだよ…お兄さん、痛がってる…」 ん? 聞きなれない声が聞こえたので、苦しさに耐えつつそちらの方に顔を向けると、そこには妹の突然のダイブにおろおろしている一人の少女が立っていた。すらっとしたスレンダーな体つき、身長は妹よりも10センチは高いな、中学1,2年というところか。顔を見て、何か見覚えがあるなあと、思い出そうとしていまだ完全に覚醒していない脳みそのエンジンをフル回転させようとした矢先に、また妹が、 「起きてー、キョンくん!」 俺の上で暴れるもんだから、またまた苦しさに悶絶し、たまりかねて上半身を起こす。妹はいつもどおりベッドの上をコロンと転がり、少女はおろおろあわあわしながら焦っている。その仕草がなんとなく朝比奈さんを思い起こさせて微笑ましい。 「起きたよ!朝っぱらから暴れるな!お前は!」 妹を叱りつつ、少女の方に顔を向ける。どこかで見た顔である。その少女のことを思い出そうと見つめていると、それに気づいたのか、少女はこちらを向き、そして恥ずかしそうにうつむいた。 えーっと、誰だっけ?んーーーーーーー…と悩んでいると、 「お、お兄さん、おはようございます。」 その少女は、うつむき加減のまま、時折チラッとこちらを見てはまた恥ずかしそうに目線を伏せつつ、朝の挨拶をしてきた。 「あ、ああ、おはよう…」 不意を突かれた感じになって、思わず挨拶を返した。きちんと挨拶のできるしっかりした娘だなあ。うちの妹に見習わせてやりたい、などと思っていたら、ふと、 (んん?妹?しっかりした娘?…) もう一度その少女をじーっとみつめる。 「君はミヨキチかあ!」 俺は、ようやく思い出した。 「え?あ、…はい…」 ミヨキチ、本名を吉村美代子という。妹の同級生で友達でもある。以前から大人びた娘だとは思っていたが、ここ半年ぐらい見ない間にまたずいぶんと成長した ものだ。胸なんか結構膨らんできて、腰のくびれもうっすらとだがわかるようになってきている。いまだに胸なんかふくらむ気配もない妹と比べたら、月とすっ ぽん並みに違いがあるぞ。こいつの将来がホント心配になってくる。 「ずいぶん大きくなったなあ。それに綺麗になって…」 正直な感想を思わず吐露してしまうと、 「え?あ、ああありがとうございます……」 ミヨキチは、ぷしゅーっと湯気が出そうなぐらいに顔を真っ赤にして小さくなって顔を伏せた。 「あ、あの、今日はこんな朝早くに起こしてしまって申し訳ありません。」 控えめに謝辞を告げるミヨキチ。だいぶテンパッテル様子だが、それでも敬語でしゃべるのを忘れないのは、親のしつけが行き届いている証拠だな。誰にも遠慮なく気軽に話しかける妹にまたまた見習わせてやりたいぐらいだ。 というか、「起こしてしまって」って…… 「ん?今日はなんか妹が俺に用があるとか言っていたが、俺に用があるのはミヨキチの方なのか?」 そう問いかけると、ベッドでぶっ倒れていた妹がもそもそ起き上がってきて、 「えっとね、今日ね、美代ちゃんのお誕生日なの。」 突発的に説明しだした。 「へえ、それはおめでとう、ミヨキチ。」 話の筋が見えず、わけがわからなかったが、とりあえず祝福の言葉をかけた。 「あ、ありがとうございます…」 いまだ顔が真っ赤でうつむいているミヨキチ。ていうかこの娘はなんでこんなに恥ずかしがっているんだ? 「それでね、お誕生日プレゼントをあげようと思って、美代ちゃんに何がいいか聞いたの。」 ほうほう。なかなか友達思いではないか、わが妹は。 「そしたらね、美代ちゃん、一人っ子で兄弟がいないからお兄ちゃんが欲しいって言ったの。」 ミヨキチは一人っ子だったのか。確かにそれは寂しいだろうな。まあうちの妹のように騒がしい兄弟がいるのも考えものだが…しかしそれはちょっと妹には無理な相談じゃないかな。両親に頼んだら、もしかしたら弟か妹ぐらい作ってくれるかもしれないが。 「だからね、キョンく…」 と言いかけたところで、ミヨキチが妹を制止した。 ミヨキチは俺の前まで来て、意を決したように俺に話しかけようとした。 そして冒頭につながるのである。 そのあと、妹から、そしてミヨキチ本人から、理由を説明された。 それらをまとめると、要はこういうことだ。ミヨキチは一人っ子で兄弟がいないのに対して、妹には兄(つまり俺)がいる。そして妹が俺のことを楽しそうに話すのを聞いていて(一体どんな話をしているのやら)、いつもうらやましかったと。 ただそれだけなら別に俺じゃなくても欲しがるのは弟でも妹でもよかったのだが、ミヨキチは見た目も中身も同級生よりはるかに大人で、受け答えなんかもしっ かりしていることから、クラス委員を任せられていて、生徒や先生までもミヨキチを頼りにしているらしい。ミヨキチは、それはそれで別に嫌ではないのだが、 しかしいつも頼られていると疲れてしまうことがある。そんなときに逆に自分から甘えられる存在があればうれしいと思っていた。それなら親に甘えればいいと 思うかもしれないが、そこは微妙な乙女心というか、今まで築いてきたしっかり者の娘という立場を崩したくはないのだそうだ。 で、じゃあなぜ俺なのか、というと、さっきも言ったように妹がイロイロと俺の話をしていたこともあるのだが、以前小学生では入ることのできない映画に頼ん で連れて行ってもらったときに、こんな兄がいたらなあ、と思ったらしい。いや、特に優しくしてやったわけでもなく、俺は単に高校が始まるまで暇だったから つきあっただけなんだけどなあ。 まあ、そんなわけでミヨキチは妹に、妹としての立場を代わってくれとお願いしたそうだ。 顔を真っ赤にしながら、先ほどとは打って変わってこちらを真正面から見据えながら、 「今日一日だけでいいんです……ダメでしょうか……」 寂しげな表情を見せて、両手をぎゅっと握り締めつつ、こちらを見つめてくる。 「……いや、俺は別にそれぐらいかまわんが…」 そう言うと、不安げだった表情を一変させて、笑顔で、 「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」 謝辞を告げた。こういうのをはじけるような笑顔というのだろう。漫画的表現を使えば背後に綺麗な花が所狭しと配置されていそうな、そんな笑顔だった。 「よかったねえ、美代ちゃん。」 妹が言うと、 「うん、ありがとう!」 言い返すミヨキチ。妹に見せる態度は、小学生のそれそのものだ。 「ていうか、ミヨキチ、お前の兄貴になるって、俺は一体どうすればいいんだ?」 お願いされてそのまま何も考えずに返事をしてしまったが、考えてみれば『お兄さん』になるって具体的にどうすればいいのか、俺にはわからない。 「え?……あの……妹さんに、いつも接しているようにしていただければ…」 突然の俺の問いかけを、ミヨキチは予想していなかったらしく、またまた伏し目がちに顔を赤くした。 妹にいつも接しているように?って別に他のガキを扱うのと変わらんのだけどな。まあ兄妹な分、接する機会が多いので、イロイロしてはいるが… しばらく考えたあと、突然こう切り出した。 「よしわかった、ミヨキチ。」 「え?」 ずっと黙り込んでいた俺がいきなりしゃべりだしたものだから、ミヨキチはびっくりして顔を上げた。 「ミヨキチは俺にミヨキチの兄貴になれという。」 「は、はい。」 「俺はそれを了承したが、はたしてどうしていいのか、よくわからない。」 「は、はい。」 俺の言葉に対して、律儀に相槌を返すミヨキチ。 「ミヨキチは妹と同じように扱ってくれという。」 「はい。」 真面目な顔をして返事をする。こういうところにもミヨキチの性格の素直さが現れているね。 「ところで、実は俺は今日、妹に一日つきやってやろうと思っていた。最近は学校の連れとのつきあいが多くて余り構ってやれなかったからな。」 「はい。」 「それで今日は妹の好きなところに連れて行ってやろうと思っていたんだ。」 「はい。」 「というわけで、ミヨキチは今日はなにがしたい?どこにでも連れて行ってやるぞ。つってもあまりに遠いところは無理だが。」 「はい。……あ……えっと……」 いきなりの質問にミヨキチは意表をつかれたらしく、口ごもる。 「…………」 しきりに考えているミヨキチ。と、顔を上げたかと思うと、おれと目が合った途端にまた顔を伏せて、 「…映画に連れて行ってもらえますか?」 「映画か?お安い御用だ。」 「あ、ありがとうございます…」 嬉しそうにうつむくミヨキチ。顔は相変わらず真っ赤だ。 「んー、でも映画だけだと午前中で終わっちまうな。どこか他に行きたいところはあるか?」 「え?」 またも予想していなかった俺の問いかけに戸惑うミヨキチ。 「いや、映画のハシゴとかでもいいんだがそれも飽きるだろ?それとも兄妹関係は午前中だけでいいのか?」 「え?え?い、嫌です。えっと、あの…」 必死で考えるミヨキチ。この辺の仕草も朝比奈さんを思い起こさせて微笑ましい。いきなりどこ行きたいかなんて聞かれてもすぐには思いつかないだろうな。まあいい加減ミヨキチを困らせるのもなんだから、ここらで助け船を出してやろう。 「じゃあ、隣町の遊園地はどうだ?映画は座りっぱなしだから次は身体を動かして遊ぶっていうのは。」 俺の提案に困り顔で考えていたミヨキチが、ぱっと顔を輝かせて、 「は、はい。それでお願いします!」 「オッケー。じゃあそういうことで、とりあえず見たい映画はあるか?」 「えっと……」 こういった感じで見たい映画も決まり、外出の準備をしようという段階になって、それまでベッドの上でこちらのやり取りをにこにこしながら見ていた妹に、 「おい、今から出かけるからお前も準備しろよ。」 声をかけると、妹はきょとんとした顔で、 「私は行かないよ。」 お、予想外の答え。 「へ?なんでだ?なんか用事でもあるのか?」 「今日はキョンくんの妹は美代ちゃんで私じゃないの。だから行かないの。」 との答え。 「そうなのか?いや、それはそれで俺は別にかまわんが。んじゃあ、シャミセンの相手でもして大人しくしてるんだぞ。お土産買ってきてやるから。」 「はーい。」 妹のことだから喜んでついてくるもんだと思っていたが意外だったな。まあ子供の世話は少ない方がいいからよかったが…。といってもミヨキチが俺に世話をかけるとも思えんが。 「いってらっしゃーい。」 妹が、玄関先で、シャミセンを抱えてその前足を持って“バイバイ”をさせながら、俺達を見送っていた。シャミセンはえらく迷惑そうだったが…。 最初の目的地である映画館に行くため、最寄り駅に向けて歩き出した。ミヨキチは、俺の後をてくてくとついてくる。 「俺、歩くの早いか?」 はたと相手がまだ小学生であったことに気付き、後ろを振り返って語りかける。 「い、いえ、そんなことありません……」 うつむきつつしゃべるミヨキチ。……なにか話したそうな素振りだったので、 「ん、なに?」 そう言うと、ミヨキチは、 「え、あ、あの、えっと……」 もじもじとしながら口ごもったが、意を決したように俺の方を向き、 「お、お兄さん、て、ててて手をつないでもらってもいいですかっ?」 どもりつつ一気にまくし立てたミヨキチであったが、言い終わった途端に恥ずかしがってまた顔を伏せてしまった。 「え?あ、ああ…」 突然のお願いに戸惑う俺。 別に手をつなぐぐらいは構わんのだが。妹なんか俺の手を引っ張って強引に連れて行くぐらいだからな。 ん?そういえば今日は単にミヨキチを遊びに連れていくだけじゃなかったな。ミヨキチを「兄」として遊びに連れていくんだった。 一つの案が浮かんだ。今日はついでに俺の妹に対する普段からのささやかな望みを、ミヨキチにかなえてもらうことにしよう。 「いいよ、手をつないでも。ただしそれには条件がある。」 「え?」 一瞬笑顔になったが、すぐに困惑顔になる。 「俺のことをこれから“お兄ちゃん”と呼ぶこと。」 「え?え?」 俺の突飛な申し出に驚くミヨキチ。 「今日、ミヨキチは俺の妹になんだから、そう呼んでもおかしくないだろ?」 「え?あ、あの、え?」 戸惑うミヨキチ。いやさ、俺の妹は、俺のことを“キョンくん”とかまるで友達のように呼んできやがるものだから、やはり兄としては呼ばれたいわけなんだよ、“お兄ちゃん”と。 「え、えと、あの…」 やはりさすがに赤の他人をお兄ちゃんと呼ぶのは恥ずかしいか?と、思い立ち、この条件を免除してやろうと口を開きかけたところ、 「…お兄ちゃん……」 ほとんど聞き取れないような声でミヨキチはつぶやいた。 自分で要求したとはいえ、実際に呼ばれると照れてしまうな、これは。 「お兄ちゃん。」 今度ははっきりとしゃべるミヨキチ。それと同時に俺に向かって右手を差し出してくる。 一瞬その意味を理解できなかったが、すぐに気づき、ミヨキチを見る。と、ミヨキチは恥ずかしげな表情と不安そうな表情を混ぜたような顔を俺に向けていた。 「おう、ミヨキチ…っつーか妹にミヨキチはおかしいな。美代子だな。おう美代子、じゃあ行くか。」 差し出された手をつかみ、歩き出そうとする俺。 「はい!…あ……」 兄に向って敬語はないだろう、と突っ込もうとする間もなく、ミヨキチ自身がそれに気づいたようで、 「うん!お兄ちゃん!!」 ミヨキチはこぼれるような笑顔で、俺の手を握り返してきた。 俺とミヨキチは、仲良く手をつないで駅に向かって歩いていた。そして駅前の広場に到着したところでいきなり背後から声をかけられた。 「キョン!」 なぜか、我らが団長様、ハルヒ閣下の御登場だ。 「あんた、こんなところでなにやってんの?」 お前こそなにやってんだよ。お前ん家は一駅先だろうが。 ハルヒは、俺のそばに人がいるのに気づいて、今まで笑みが入っていた顔が一瞬にして曇る。 俺はやばいと思って手を離そうとしたが、ミヨキチが離してくれなかった。ミヨキチは、俺の斜め後ろから不安そうにハルヒの方を見ている。 つーか別にやばいと思う必要はないよな、疾しいことをしているでもなし、小学生を遊びに連れていってるだけだからな。そもそも俺がハルヒになにを遠慮することがある? そんな俺の思いとは裏腹に、ハルヒはずんずんと俺に近寄ってきて、 「キョン!あんた、今日は妹ちゃんの相手をするって言ってたじゃない!あれはウソだったの!!?」 両手を腰にあてて俺をねめつけるように捲くし立てる。 「平の団員のくせに、団長にウソつくなんて何様のつもり!?しかも妹ちゃんをだしに使って、自分は仲良く女の子とデートって。ここ最近、休みの日はあんたを連れ回してたから、妹ちゃんに悪いことしたかなって思って、今日は遠慮したのにっ!!」 今にも喰いつきそうな勢いだ。 「まあ、待て、ハルヒ。俺の言うことをき…」 「言い訳するんじゃないわよ!しかも連れてる子はなに?まだ中学生じゃない!このロリコンのエロキョン!!」 「だから、とりあえずおちつ…」 「問答無用っ!今からあんたのその腐った根性を修正してやるからっ!」 叫ぶや否や、俺に殴りかかってくるハルヒ。防戦一方の俺。と、そこへ、 「お兄ちゃんをぶたないでっ!」 ミヨキチがハルヒの腕にすがりついている。ハルヒはミヨキチの行動と言動に驚いて、 「お兄ちゃん?」 俺への暴行を止めてミヨキチの方を向いた。 「私がお兄ちゃんにお願いしたんです!だからお兄ちゃんをぶたないでっ!!」 突然の闖入者の思いがけない発言に目を丸くするハルヒ。すがりついた相手が既に動きを止めているのに気づいたミヨキチは、はっと自分がした行動や発言を思い出し、 「す、すみませんっ!」 叫びながらぺこぺこと頭を下げる。 「わ、私、お兄ちゃん…じゃなくてお兄さんの妹さんの同級生で吉村美代子っていいます。今日は、お兄さんにお願いしておつきあいしていただいていたんです。」 あわあわしながら、事の経緯を説明するミヨキチ。それをあっけにとられた表情のまま聞いているハルヒ。 「……ふーん、一日お兄ちゃんねえ…そうなんだったら最初から言いなさいよ、まったく。」 って、おいっ、お前が問答無用で殴りかかってきたんだろうが。 「で、本物の妹ちゃんはどうしたの?」 ぶつぶつ文句を垂れる俺を軽く無視して、ハルヒが聞いてきた。 「…妹か?やつは今日は留守番だ。」 今度は俺が今朝のやり取りを説明する。 「まあ、事情はわかったわ。とりあえず、キョン!今日はきちっとミヨキチちゃんのお兄さん役をやるのよ!」 「お前に言われなくてもそうするつもりだよ。」 ハルヒは俺をにらみつけたかと思うと、その視線を俺からミヨキチの方に移して、 「それにしても…」 ミヨキチをじろじろと品定めするように見ながら、 「妹ちゃんの同級生っていうことはまだ小学生なのね。最近の小学生は発育いいわねー。」 言いながらミヨキチの背後に回ったかと思うと、突然ミヨキチの胸を両手でわしづかみにした。 「ひゃあっ!」 あまりの出来事に悲鳴を上げてわたわたするミヨキチ。そんなミヨキチの悲鳴などどこ吹く風というように、ハルヒは胸を揉みしだいた。 「胸もこんなに大きくって、高校生ぐらいになったらみくるちゃん並の爆乳になるんじゃないかしら。」 「あわわわわわわ。」 そ、そんなに成長しているのか、ミヨキチ…お兄ちゃんもこの手で確かめてみた…じゃなくて、 「おい、ハルヒ!いい加減にしろ!」 俺はミヨキチの胸を揉みしだいているハルヒの手をつかむ。 「いいじゃない、ちょっとぐらい、減るもんじゃなし。」 「兄として、痴女から妹を守るのは当然だろう。ミヨキチを解放してやれ。」 「誰が痴女よ!…ってまあいいわ。」 ミヨキチの胸から手を離すハルヒ。その途端にミヨキチはふにゃあっとその場にへたりこんだ。 「とにかく、ちゃんとするのよ!お に い ち ゃ ん !!」 わざとらしく最後の言葉を一字一字区切って強調すると、ハルヒはずんずんと歩いて行ってしまった。 茫然とハルヒを見送っていたが、路上にへたりこんでいるミヨキチに気付き、 「大丈夫か?ミヨキチ。」 しばらく放心したようだったミヨキチは、俺の声にハッと気づいて、 「だ、大丈夫です。」 よろよろと立ちあがり、服を整えるミヨキチ。 「すまんなあ、あいつ、ホント勝手なやつで…」 「…あの人が、涼宮ハルヒさんですか?」 心なしか、顔を伏せて表情が暗いミヨキチ。 「あ、ああ、ハルヒのこと知ってるのか?」 「あ…えっと…妹さんに…」 相変わらず顔を伏せているミヨキチ、と、急の右手を差し出して、顔を上げ、にっこりとして、 「行こ!お兄ちゃん。」 「あ?ああ、行こうか、ミヨキ…じゃなくて美代子。」 おれは差し出された手を握った。握り返してきたその手は、とても小さく、少し汗ばんでいた。 キョンくんと美代ちゃんをお見送りしてから、私はずっとシャミと遊んでいた。 今日はなにもすることがないなあ。宿題も終わっちゃったし。お父さんもお母さんもご用でお出かけしてるし。 ゲームを引っ張り出してきて、しばらくやってたけど、つまらなくなって止めた。そのままテレビをぼーっと見てたけど、面白くなかったから消した。ベッドに行ってシャミとゴロゴロすることにした。 「シャミの手はすべすべで気持ちいいね。」 ぷにぷにする肉球に頬ずりする。それからお腹をすりすりしたり、頭をわしゃわしゃしたりしてたら、シャミが「にゃあ」って言って、するりと私の手をすり抜けて部屋を出て行ってしまった。 シャミ、またキョンくんの部屋に行くのかな。キョンくんのベッドがお気に入りだもんね。 ベッ ドの上でしばらくぼーっとして、またシャミを追いかけてキョンくんの部屋に行った。シャミは予想通り、キョンくんのベッドの上にいた。あごを枕の上に乗せ て、気持ち良さそうに目を閉じていた。シャミは、私が来たのを見ると、一瞬だけこちらを見たが、「にゃあ」って言ってまた同じ姿勢に戻った。 私もベッドの上に潜り込んで、シャミの横にどてっと寝ころんだ。シャミは迷惑そうに「にゃあ」とまた言ったけど、私のために枕を空けてくれた。ありがとね、シャミ。 それから、そのまま気付かないうちに寝てしまった。 キョンくんの布団、自分のじゃない匂いがする。そういえば前に一緒に寝たのはいつだったかな。最近は全然一緒に寝てくれないの。黙って潜り込んでもいつも抱えられて自分のベッドに返されちゃう。 小 さな頃はよく一緒に遊んでくれたのに、高校に入ってからは休みの日もあまりかまってくれなくなった。いつもはるにゃん達と一緒にお出かけしてる。たまーに 一緒に連れて行ってくれたりするけど、それでもキョンくんは、はるにゃんとかみくるちゃんとか有希ちゃんとかとおしゃべりしてて、あまり私のことをかまっ てくれないの。 私のこと、嫌いになっちゃったのかな? ………… ………… 遠くで何か音が鳴っているのが聞こえる。 ぴんぽーん。 はっと目が覚める。 家のチャイムが鳴ってる。お客さんだ。 ベッドから飛び起きて、階段を下り、玄関に走って行った。 「はーい。」 ドアを開けると、そこにははるにゃんがいた。 「はるにゃん、キョンくんなら今日はお出かけ…」 「妹ちゃん、久しぶりね、元気にしてた?……って、泣いてるの?」 「え?」 自分の顔を触ったら濡れてた。泣きながら寝てたみたい。 「ううん、違うよ。さっきまで寝てたから…」 「ふーん…」 私の顔をじっと見つめるはるにゃん。 「キョンくんは今日はお出かけしてるよ。」 「今日はキョンなんかに用はないわ。妹ちゃん、あなたに用があるの!」 「え?」 「さあ、来なさい!」 「え?え?」 はるにゃんが腕を引っ張って、私を強引に連れ出そうとする。 「なに?はるにゃん、どこ行くの!?」 なんとか踏みとどまろうとして、足を突っ張らせる。 「遊びに行くのよ!ほら、大人しくついてきなさい!!」 「え?ちょ、ちょっ…」 抵抗もむなしく、私ははるにゃんにずるずると引きずられていった。 私を引っ張るはるにゃんの手は、とても温かかった。 俺とミヨキチは映画を見ていた。どんな映画かって言うと、毎度おなじみの、ホラー映画だ。……なんでミヨキチはホラー映画が好きなんだろう?前に一緒に行った時もそうだったよな。 かといってホラーが好きで好きでたまらなくて目を爛々と輝かせて見入っているといった感じでもなく、時々小さな悲鳴をあげて俺にしがみついてくるぐらいだから、少なくとも一般人並みの感覚の持ち主ではあるみたいだが。 映画を見ている間、最初は手を握っていたのだが、恐怖シーンがあるたびに俺にしがみついてきて、そのうちミヨキチは俺の腕を両手でかかえながら映画を観賞するというスタイルになっていった。 そんなもんだから、俺の腕がミヨキチの体にぴったりと密接している状態になってしまって、なんか困ったやらうれしいやらで… 通常だったら小学生に抱きつかれたってなんとも思わんのだが、ミヨキチが年の割にかなり発育状態がいいってのは先ほどハルヒが直接確かめて確認しているわ けで、その、なんだ、俺の上腕あたりにな、ふにふにとしたな、柔らかいな、物体がな、それも左右からな、接触している感覚がな、ずーっとあるわけなんだ よ。いやあ、外見からもかなり大きいなあとは思ってはいたんだが、これは相当なものだな、おい。2,3年したら朝比奈さんを軽く抜くんじゃないか?少なくとも現状だけでも長門よりははるかに…いや、これは禁句だったな。 そんな至福状態も、映画の終了とともに終了となった。しばらく映画の余韻を味わっていたミヨキチは、はたと自分が両手で抱えている俺の腕に気づいて、 「あわわわわ、ごごごごめんなさいっ!」 焦ってぱっと離してしまったからだ。 「いやいや、いいよいいよ。」 心底残念に思いながら、表面上はさわやかに、 「こんな腕でよかったら、また使ってくれい。」 魂からの願望を混ぜつつ、言った。 「あ、ありがとうございます。」 顔を真っ赤にしながら、照れるように頭を下げるミヨキチ。 「また、敬語なんか使って、違うだろ?美代子。」 「え?あ、え……はいっ…じゃなくって、うん!お兄ちゃん!」 「じゃあ、とりあえず昼だしどっかで飯でも食って、遊園地に行くか。」 「うん!」 私ははるにゃんに引きずられるようにして道を歩いていた。 「は、はるにゃん、遊びに連れて行ってくれるのはわかったから、どこに行くのか教えてよおっ!」 「黙ってついてきなさいっ!ついてくればわかるから!」 はるにゃんは言いつつ、歩いていった。私は小走りで(だってそうしないと追いつけないんだもん)ついていった。そして、辿りついたのは駅だった。 駅前の広場に到着して、はるにゃんは足を止めた。そして周りを見回した後、 「あ、いたいた、こっちよ、みんな!」 そう叫んで、その方向に手を挙げた。そちらの方を見ると、二人の女の人がこちらに歩いてくるのが見えた。 「妹ちゃん、お久しぶりね。」 「……」 みくるちゃんと有希ちゃんだ。 みくるちゃんはね、優しくって、柔らかくって、あったかいんだ。いつも私の話をにこにこしながら聞いてくれる。私が甘えると、ぎゅって抱きしめてくれるんだ、お母さんみたいにいい匂いがするの。 有希ちゃんもね優しいんだよ。あまりおしゃべりしないし、いつも難しい本読んでるけど、キョンくんを見る目がね、すごく優しいの。キョンくんも、SOS団の中で長門が一番頼りになるとか言ってたし。あと、キョンくんが、有希ちゃんがなに考えているか、微妙な表情の違いでわかるのは俺だけだ、とか言ってたけど、私にもわかるんだよ。 「みくるちゃん、有希ちゃん。」 二人の方に駆け寄っていくと、みくるちゃんがいつものように私を抱きしめてくれた。 有希ちゃんも、とてとてって私の方に寄ってきて、私の頭をよしよしって撫でてくれた。あ、なんか今日は私に対しても、優しい目をしてくれてる。 「今日はみんなで遊びに行くわよ!」 はるにゃんが私達に向って言った。 私とみくるちゃんはあっけにとられて驚いてたけど、有希ちゃんはいつも通り表情を変えてなかった。 「え?どういうことですか?涼宮さん。」 みくるちゃんが聞き返す。 「どういうこともなにも、今日は遊びに行くことに決めたの。あ、あと、今日私達は、妹ちゃんのお姉ちゃんだから。」 ますます頭の中がハテナだらけになるみくるちゃんと私。有希ちゃんは相変わらず無表情だけど。 「とにかく行くわよ!」 強引に私達を引っ張って駅に向かうはるにゃん。あわあわと引っ張られていく私とみくるちゃんに、黙ってついてくる有希ちゃん。 そして私達は電車に乗り込んだ。 とりあえず俺達は遊園地に到着したのだが、はたと、どうしていいかわからない。遊園地など、親に連れられて行ったことはあるが、積極的に誰かを連れて行った経験などなく、ここでどういう行動をなすべきか、しばし悩んだ。そしてその解決を図るべく、ミヨキチに問いかけた。 「ミヨキチ…じゃなくて美代子だったな、美代子は何に乗りたいんだ?」 「え?あ…えっと…」 口ごもって考えるミヨキチ。俺も悩む…こういうとき、妹だったら俺の手を引っ張って、自分の行きたい所に勝手に行くんだろうが… 「うーん、メリーゴーランドとか、乗る?」 「え?…うーん…」 乗り気でない様子。どうしてだろう。 「あの、えっと、おにいさ…お兄ちゃんと一緒に乗れる乗り物がいいで…いい。」 「一緒に乗れる乗り物?そうだなあ…」 そういえばミヨキチはひとりっ娘だったな。スキンシップに飢えてるのだろうか。 おれは周囲を見回し、最初に目に入った乗り物を指差して、 「んじゃあ、コーヒーカップにでも乗るか?」 そう誘うと、ミヨキチはそちらの方を確認して、 「うん!」 極上の笑顔で同意した。ホント可愛い笑顔だよな、おそらく同級生の男なんかはかなりミヨキチに思いを寄せてるんじゃないか?とりあえず俺が同い年だったら、確実にイカレてるな、うん。 コーヒーカップに乗り、はしゃぐミヨキチ。妹と一緒にいるときの、年に似合わないどこか大人びた雰囲気や表情とは違った、年相応の子供っぽいミヨキチがそこにいた。 その後、慣れてきたのか、ミヨキチは俺の手を引っ張り、次から次へと様々な乗り物やアトラクションに興じていた。 何度目かの乗物から一緒に降り立ち、次はどこへ行こうかとミヨキチと案内冊子を見ていたところ、 「キョンくん。」 突然、鈴が鳴るようなかわいらしい声が俺に対してかけられた。 振り返ると、そこに立っていたのは、普段ハルヒに振り回されっぱなしの殺伐とした高校生活において、俺に癒しと安らぎを与えてくださるマイエンジェル、朝比奈さんだった。 電車に強引に連れ込まれてから、はるにゃんにどういうことなのか聞いた。そしたら、 「私、兄弟っていないから、一回妹を持つとどういうものか、試してみたかったのよね。」 って言ってた。そういうものなのかな?とか思ったけど、でもそれじゃ、なんでみくるちゃんや有希ちゃんも?って聞くと、 「どうせ遊びに行くなら大勢の方が楽しいじゃない。それに兄弟も大勢いた方がいいでしょ?お姉ちゃんが3人もいるのよ。」 ん?ん?ってよく分かったようなよく分からないような返事だったけど、でもどうせ今日は何もすることなかったし、はるにゃんと一緒にいると面白いしね。野球に混ぜてもらったときもすごく面白かったし。 「そういうわけで妹ちゃん、今日は私達のことは“お姉ちゃん”って呼ぶのよ、いい?」 へ?お姉ちゃん?それは別にいいけど、みんな“お姉ちゃん”でいいの? 「そうね、それぞれ“お姉ちゃん”の前に名前をつけなさい。私のことは“ハルヒお姉ちゃん”、有希のことは“有希お姉ちゃん”、みくるちゃんは“みくるお姉ちゃん”ってね、一回呼んでみて。」 呼んでみるの?それじゃ、ハルヒお姉ちゃん。 「うん、なかなか気分がいいわね。妹ちゃんはちっちゃくって可愛いから、なんかこう、“お姉ちゃん”って呼ばれると庇護欲がそそられるわね。有希やみくるちゃんにも言ってあげなさい。」 言われるがままに言ってみた。有希ちゃんはほとんど表情を変えなかったけど、またキョンくんに向けるような優しい目をしてくれた。みくるちゃんはにっこり笑って、 「はいはい、妹ちゃん。」 って言って、頭を撫でてくれた。なんか年上の人にこんな感じに扱ってもらうと、なんかこそばゆっくてうれしいね。 何度目かの駅で人が大勢乗り込んできて電車の中が満員になったら、はるにゃ…じゃなくてハルヒお姉ちゃんが、 「はぐれないようにつかまりなさい。」 っ て言って、手をつないでくれた。ほとんど同時に違う手の方も握られた。有希ちゃ…有希お姉ちゃんだ。そして後ろから私の首に手をまわして乗客の圧力から 守ってくれるのがみくるお姉ちゃん。ハルヒお姉ちゃんと有希お姉ちゃんの手や、背中に感じるみくるお姉ちゃんの身体は、ふわふわ柔らかくて、とっても暖か かったよ。 ハルヒお姉ちゃんに連れられて行った場所は遊園地だった。いろんな乗り物に乗ったよ。ハルヒお姉ちゃんはヤッホーとかいろいろ叫んで面白がってたし、有希 お姉ちゃんは怖い乗り物でも全然怖がらなかった。みくるお姉ちゃんはひゃあーーーーっとか悲鳴をあげてたよ。私はみくるお姉ちゃんに抱きついて一緒に悲鳴 を上げたりしてた。 椅子に座って休憩していたら、ハルヒお姉ちゃんが、 「私、なにか飲み物買ってくるわね。」 って言って、早足でジューススタンドの方に向かっていった後、みくるお姉ちゃんがふと、遠くの方を見て、 「あれ?」 って、つぶやいた。 そして、みくるお姉ちゃんが歩いて行ったので、そちらの方を見ると、キョンくんと美代ちゃんが、手をつないで歩いてた。 そこには驚いた表情をした朝比奈さんが立っていた。 見られて困る状況に遭遇した気持ち…っつーか別にやましいことはないよな。でもなぜか焦る俺、 「あ、朝比奈さん、奇遇ですねえ…」 「え?ああ。そうか…」 なんか、朝比奈さんは一人で納得されている様子。な、なんすか? 「朝比奈さん?」 「あ、えっと…皆さんを呼んできますね。」 そう言うと、朝比奈さんは向こうの方に駆けて行ってしまった。俺は訳が分からず茫然とそのかわいらしい後姿を目で追っていたが、ふと、手を強く握られているのに気づいて、ミヨキチの方を振り返った。ミヨキチは、不安そうな顔で俺を見上げていた。 「あ、あの人はな、高校の先輩で…」 なぜか焦って言い訳のようなしゃべり方をする俺。そんな挙動不審の俺に対して、ミヨキチは目をそらさず、まっすぐ俺を見つめてくる。なんかその眼が、普段の俺の朝比奈さんに対する邪まな思いを見透かされている気がして、ますます焦る。 そこへ、救世主のように、朝比奈さんがまた戻ってきた。 「キョンくん、今日は妹さんと遊びに来ているんですよ。」 へ?妹? 朝比奈さんの背後の方を見ると、遠目に妹と、…あれは長門か?が、手をつないで(!?)歩いてくるのが見えた。 「また、なんで?」 「いえ、涼宮さんがいきなり…」 言いかけたそのとき、妹と長門の背後から、 「こるあああああああっ!キョーンっ!!」 という、叫び声が聞こえたかと思うと、ハルヒが飛ぶように走ってきて、妹を自分の後ろに隠すように確保すると、 「キョン!私の妹になにするつもりっ!?」 睨みながら叫んだ。 「なにするって、なにもする気はないが…って妹?」 「そうよ!妹ちゃんは今日は私達の妹なんだから。妹ちゃん、あいつには気をつけなさい!あいつは、小学生にお兄ちゃんって呼ばせて喜んでる、変態のロリコンよ!」 おいおい、ひどい言い草だな。 ハルヒの突然の登場に驚きつつ周囲を見ると、朝比奈さんはちょっと困ったように苦笑しており、妹はハルヒの体から身を乗り出してこちらを見ている。長門は いつも通りこちらをじーーーっと観察しており、ハルヒは俺を睨んだままだ。一方ミヨキチはというと、俺の右腕を両手でかかえ、俺の背後に隠れるようにして ハルヒの方を見ていた。どうも驚くとかすると何かにすがりつく癖があるらしいね、おかげでまた腕が左右から柔らかいものに包まれてニヤケ顔になりそうにな るのをなんとかこらえる。 そんな俺の心情を鋭く察知したのか、ハルヒは、 「こんなのと一緒にいたら、変態がうつるわ!みんな、行くわよ!!」 言うや否や、ずかずかともと来た方向に去っていった。ていうか、変態がうつるって… こちらをじーーーーっと見つつもハルヒの後を追っていく長門、ジェスチャーでごめんなさいをしつつ小走りでハルヒを追っかけて行く朝比奈さん。妹はハルヒに引きずられながらこちらをずっと見ていた。 その後、俺たちはそれまでと変わりなく、いろいろな乗り物やアトラクションを楽しんだ。ミヨキチも楽しんでいたようだが、なぜかそれが表面だけのように見えたのは気のせいか?その感じは、時間が経つにつれて段々と大きくなっていった。 「どうした?疲れたか?」 もうそろそろ夕刻になろうという時間、さすがにこれ以上遅くまで小学生を連れ回すわけにはいかない。 「…ううん、そんなことないよ。」 ミヨキチは言うが、外見からは明らかに疲労の色が見える。 「もう時間もないし、そろそろ帰るか?」 俺の提案に、 「……いや、もう少し遊びたい…」 小声で言い、つないでいた手をぎゅっと強く握ってきた。 「うーん、俺もそうしたいのはやまやまなんだが、もうそろそろ帰らないと家に着く頃には暗くなっちまうぞ。」 俺が言うと、ミヨキチは握っていた手を離し、すがりつくように俺に抱きついてきた。 「いや、もっと遊びたい。」 俺は、その時、ミヨキチの年に似合わない身体の感触を楽しむことを忘れ、ミヨキチの、普段なら絶対にとらないような態度に驚いていた。そういえば、ミヨキチは、今日は俺の妹だったんだな。素直に自分の感情や態度を示してもいい、兄に甘えてもいい、妹だったんだ。 「そうか、わかった。でもあと一回だけだぞ。いいか?」 俺の言葉に対して、ミヨキチは、俺に抱きついたまま、 「…うん。」 小さく答えた。 「じゃあ最後になにに乗りたい?」 俺が聞くと、ミヨキチは、躊躇なく一方向を指差して、 「あれ。」 その細い指の差す方向には、空中高くそびえる大きな円、観覧車があった。 「よし、わかった。じゃあ、行こうか。」 「……うん。」 観覧車に乗った俺たちは、なにをするでもなく、ぼーっと外を見ていた。 地上にある建物や行き交う人々が、だんだんとミニチュアのおもちゃのようになっていく。遠方を見ると、太陽が、地面に今にもキスしようかというぐらいにその位置を下げていた。 このまま何もしないのもなんなので、俺はミヨキチに、ぽつぽつと、話を振った。 「映画は面白かったか?」 「うん。」 「遊園地はどうだ?楽しめたか?」 「うん。」 ………… 少し前とは違って、ミヨキチはあまりしゃべらなくなった。俺は、疲れたんだろうと思って、気にもせずにくだらないことを話しかけていた。 「今日はすまんなあ、ハルヒのやつがいろいろ騒がせて。」 話題をハルヒのことにすると、ミヨキチは、それまで伏せ気味だった顔を上げて、俺を見つめてきた。 「お兄ちゃん。」 それまで、ほとんど自分から話すことがなかったミヨキチが、急に話しかけてきたので、俺は少々びっくりした。 「ん、なんだ?」 「ハルヒさんって、どんな人なの?」 「ハルヒか?」 俺は少し考えて、 「うーん、一言でいえば、騒がしい女、かな?」 「……」 「人の言うことなんか全く聞かないで、ぎゃあぎゃあ騒いで自分の言いたいことを押し通すような、勝手なやつだよ。」 ミヨキチが俺の顔をじっと見ているのを感じる。俺はその視線に合わせることなく続けた。 「騒ぎたければ自分一人で騒げばいいものを、他人を巻き込まないと気が済まないみたいだな。俺なんかはいつもつきあわされてるからいい迷惑だよ。」 「それじゃあ、お兄ちゃんはハルヒさんのことは嫌いなの?」 そう質問してくるミヨキチ。どんな表情をしていたのか確認していないが、俺の手を握っていた手の力が強くなったのは感じた。 「嫌いかって?まあ、積極的に好きってわけでもないが、嫌いってわけでもないな。あいつといるといろいろ面倒事に巻き込まれるのは確かだが、そのかわり、面白いことにもいろいろ遭遇するからな。おかげで高校生活は退屈してないよ。」 俺の話を黙って聞いていたミヨキチは、 「そう……」 それだけ言って、あとは黙り込んでしまった。 その後、俺が高校生活のことやらSOS団の話を一方的にしていたら、ちょうど観覧車が一周回って終点に着いた。 「さ、帰るか。」 俺の言葉に、 「…うん…」 ミヨキチはか細い声で答えた。 帰りの電車に乗った際、ドアが閉まる直前に駅のホームからけたたましい騒音とともに、 「こらー、そこの電車、待ちなさーい!」 叫びながら、ハルヒ達一団が同じ車両に乗り込んできた。 ハルヒはそばにいる俺達を見つけると、 「あ、変態!」 俺に向かって大声で叫びやがった。その声に他の乗客が一斉にこちらを見る。 「お、お前、変態はないだろう、変態は…」 「変態に変態って言ってなにが悪いのよ!あんた、ミヨキチちゃんに変なことしてないでしょうね!?」 「するか!バカ!!」 「バカとはなによ!平の団員が団長に向かって!!」 な どと言いあっていたが、その時他のメンバーはどうしていたかというと、朝比奈さんは妹を抱きかかえつつにこにこと俺達のやり取りを眺めており、長門はやは りいつもどおりじーーーっとこちらを眺めていた。妹は朝比奈さんに抱きついてふわふわのロングスカートに顔をうずめていたが、ちらちらと時々こちらを見て いた。ミヨキチは俺の手を握りつつ黙って床を見ていた。 俺とハルヒが言い争いをしているうちに目的駅に到着し、 「じゃあ、送っていこう。」 俺の言葉を耳ざとく聞きつけたハルヒは、 「キョン!あんた、ミヨキチちゃんを変なとこに連れ込もうとか、不埒なことを考えてるんじゃないでしょうねえ!?」 またなんか、因縁をつけてきた。 「んなわけないだろう!」 まったく、なんなんだ、この女は。そもそもお前の家は隣の駅だろう。 俺はハルヒを無視し、ミヨキチを連れていこうとした。 ところが、俺達が歩く後を、ハルヒ達がついてくるのだ。 「おい、ハルヒ。いったい何の用だ!?」 「別にあんたに用はないわ。私達の行く方向とあんた達のが一緒なだけじゃない!」 結局、ハルヒ達はミヨキチの家の前までついてくることになってしまった。ミヨキチは、道中はほとんど口を開かず、俺の手を握りつつ斜め後ろあたりを歩いていた。 ミヨキチの家に着くと、 「今日は楽しかったよ。ありがとうな。」 ミヨキチは、それまでずっと押し黙っていたが、俺の言葉にはっとなり、 「い、いえ、私も楽しかったです。」 焦りながら答えた後、 「今日は私のわがままを聞いていただいてすみませんでした。」 そう言うと、深々と頭を下げた。 このへんの所作は、やはり並の小学生にはない、大人っぽさを感じる。 「いやいや、俺も今日はホント面白い経験をさせてもらったよ。」 言いつつ、ちょっとからかうように、 「ミヨキチの意外な面も見ることができたしな。」 そう言ったら、ミヨキチは途端に顔を真っ赤にして照れるように顔を伏せて、 「あ、え、あ、あの、す、すみませんっ!わ、私、お、おにいちゃ、じゃなくてお兄さんがいないので、どう接していいのか分からなくって…」 「あ、ごめんごめん、別に責めてるわけじゃないんだ。あんなミヨキチもいいと思うぞ。」 「え?あ、ありがとうございます…」 最後の方はほとんど聞き取れないような小声でお礼を言うミヨキチ。 「今日はありがとな、これからも妹と仲良くしてやってくれい。」 「あ、はい。」 「じゃ。」 手を上げ、別れを告げた。そして元来た道に戻ろうと振り返って歩こうとしたそのとき、なにか弱い力で、上着を引っ張られるように感じた。その方向を見ると、ミヨキチが、真っ赤の顔を伏せて、俺の上着の裾を、つまむようにつかんでいるのが見えた。 「ミヨキチ…」 思わず出た驚きの声。ミヨキチは、なにかを言おうとして、また口ごもる、という動作を何度となく続けた。そして意を決したように顔を上げ、俺に対して、 「また、遊びに連れていっていただいてもかまいませんか?」 真剣な表情で言った。 俺は少し面食らったが、 「…ああ」 すぐに受諾の意思を伝えようとしたが、少し考え、俺はこう答えた 「うーん、ダメだな。」 ミヨキチは俺の言葉を聞くや否や、この世の終わりのような落胆の表情を浮かべた。 「あ、いやいや、遊びに連れていかないと言っているわけじゃないんだ。」 と、フォローする。ミヨキチはすぐに安堵の表情を浮かべたが、すぐに俺の言うことが理解できないというような表情になった。 「そうじゃなくって、今日はミヨキチ…じゃなくて美代子は俺の妹のはずだろ?妹が兄貴に対して、“連れていっていただいて”はないんじゃないかなあ。」 ミヨキチは俺の言葉をかみしめるように理解した後、笑顔で、先ほどの自分の言葉を訂正した。 「また遊びに連れていってね、お兄ちゃん!」 こぼれるような笑顔。 「ああ、いつでも連れていってやるぞ。」 そんなやり取りの後、俺達は分かれた。ミヨキチは、俺が見えなくなるまで手を振っていた。俺も、そんなミヨキチに応えるように、ずっと手を振り返していた。 道角を曲がり、ミヨキチの姿が完全に見えなくなったとき、俺の進路上に、まるでRPGの敵キャラのようにハルヒ達が登場した。 「キョン、ちゃんとミヨキチちゃんを送ってあげたんでしょうね。」 「ああ。」 「ミヨキチちゃんに変なことしなかったでしょうね。」 「するか、バカ。」 大股を開いてふんぞり返り、腰に両手をあてて、俺に難癖をつけてくるハルヒ。朝比奈さんは妹を抱きよせながらこちらを見て苦笑している。妹は朝比奈さんに抱きつきながらこちらを見ている。長門はいつものように直立不動でこちらをじいいいっと見ている。 いい加減ハルヒにつきあうのも面倒くさくなってきたので、妹に向かって、 「おい、もう帰るぞ。」 そう呼びかけると、 「なに勝手なこと言ってるのよ。妹ちゃんは今日は私達の妹なんだから、あんたなんかには渡さないわよ。」 とか言ってきやがる。そのあとぎゃあぎゃあ騒ぐハルヒを適当になだめたりすかしたりしていたところ、それを見ていた妹が突然とてとてと俺のそばに来て、 「ハルヒお姉ちゃん、わたし、もう帰る。」 と言った。ハルヒはあっけにとられたように、 「へ?あ、そう?」 あいまいな返事をしたが、 「今日はとっても楽しかった。ありがとう、ハルヒお姉ちゃん。」 この妹の言葉に、 「……まあ妹ちゃんが帰るっていうならしょうがないわね。キョン、今日のところは勘弁してあげるわ。」 言い捨てると、ハルヒはくるっと翻って歩きだしたが、またこちらに振り返り、 「今日のことは、明日、詳しく報告してもらうからね。」 吐き捨てるように言い、ずかずかと早足でいってしまった。 「みくるお姉ちゃんも有希お姉ちゃんもありがとう。」 妹の言葉に、朝比奈さんは手を振りながら、長門は無言で、お別れをし、歩いて行った。 妹が手を振っているのに倣って、俺も彼女たちが見えなくなるまで手を振っていた。 「さあ、俺達も帰るか。」 俺が言うと、 「うん。」 と言いながら、妹は俺の手を握って歩き始めた。 「今日は楽しかった?」 「ん?ああ、イロイロあって、なかなか面白い一日だったぞ。」 いつも通りの会話。妹は俺の手を引っ張り、常に俺より前を歩いていた。 「美代ちゃんって可愛いよね。」 そんな会話の中、こんな言葉を妹が発した。俺は何とはなしに、 「ああ、可愛いなあ。」 「クラスでも一番可愛いんだよ。」 「ああ、そうだろうなあ。あれだけ可愛いと、男の子にもてるんじゃないか?」 「うん、美代ちゃんが好きっていう男の子は、いっぱいいるよ。」 「いまどきの小学生は進んでるっていうからなあ、もしかして付き合ってる男がいるとか?」 そう言うと、妹はその俺の言葉にびくっとなり、 「……いないよ。」 と答え、一拍置いた後、 「…美代ちゃん、好きな人がいるって。」 妹の衝撃情報に、 「へえー、そいつは幸せ者だなあ。同じクラスのやつか?」 「違う。」 ぼそっと呟き、 「学校も違う、年上の人。」 消え入るような声で言った。先ほどまでの元気な口ぶりは、今はない。しかし俺はこの時、この変化に気づいていなかった。 「ほう、さすがミヨキチ、ませてるなあ。」 などとのんきな感想を漏らしたが、その後妹は極端にしゃべらなくなり、俺の問いかけにも生返事をするだけだった。おかしいなあと思い始めたときにはもう自宅に到着していた。 その夜、妹はやたらと俺にべたべたひっついてきた。飯食う時も、テレビを見ているときも、俺のそばを片時も離れず、はてはトイレや風呂にまでついてこようとした。 俺がいい加減鬱陶しいくて振り払おうとすると、妹はそのたびにまるで捨てられた子犬のような目で俺を見るもんだから、俺としても邪険に扱うのも気が引けて、妹の好きなようにさせていた。 「まあまあ、今日は一段と甘えん坊さんねえ。」 なんて、母親にからかわれても、妹はまったく意に返さず、ずっと俺にくっついていた。 そして、案の定、寝るときにも俺の布団にもぐりこんできた。いつも通り妹を抱えて連れていこうとすると、今日は俺の身体にしがみつき、足を俺の足に絡ませてきたものだから、どうすることもできなかった。 「お前、今日はさっきからおかしいぞ。どうしたんだ?」 そう聞くと、妹は俺の胸辺りに顔を埋めながら、 「……キョンくん……」 つぶやくだけだった。俺は、なんとか妹を離そうとしたが、それもかなわず、諦めて身体の力を抜いたとき、 「キョンくん、今日は一緒に寝ちゃダメ?」 「別にダメとは言わんが、お前も兄貴と一緒に寝るような年じゃないだろう?」 「わたしと一緒はいやなの?」 なにを言ってるんだと妹の顔を見ると、こちらを見る両眼に涙をいっぱいにためている。 いつも元気な妹からは想像もつかないような悲しげな顔に、 「…別にいやじゃないが……」 俺は少し考え込んで、 「しょうがない、今日は久しぶりに一緒に寝るか。」 そう言うと、妹は何も言わずに、にこーっといつもの笑顔を見せた。目からは涙が出てはいたがな。 それから妹は、俺の右腕にしがみついたまま、学校のこと、友達のこと、シャミセンのこと、今日の出来事など、いろいろな話をし、そして、しばらくして静か になったなと妹の方を見ると、いつの間にかすうすうと眠っていた。その眼の下には、先ほど流れた涙が乾いてすじがついていた。俺はそれを指先でたどり、そ してそのまま頬を撫でた。 やはりこれからはたまには妹もかまってやらないといかんなあ、しかし休みをつぶすとハルヒのやつがうるさいからなあ。って妹もSOS団の行事に参加させればいいか?妹も野球に参加させたこともあるし、おそらくハルヒの中でも準団員扱いだろうしな。 今までの妹の扱いに対する反省をしつつ、俺も眠りに落ちていった。 眠りに就く寸前に、俺は右腕から感じる妹の身体の感触から、その発育状態の未発達加減を認識し、あらためて妹の将来を心配したのであった 翌朝、やはりいつも通り、妹のダイビングボディプレスによって、悶絶する苦しみの中、俺は目覚めた。 「キョンくん、朝だよ、起きてよ!」 妹は、昨夜とは打って変わって元気を取り戻していた。 「わかったから、暴れるな!」 俺は激痛に耐えつつ妹を押さえつける。 「キョンくん、おはよう!」 俺が起きるのを確認すると、妹はすたこらっと1階に下りていってしまった。 妹は元気を取り戻したらしい。とりあえず、安心だ。 俺はベッドから起き上がり、うーんと伸びをした。 さて、今日も元気に頑張ろうか。
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基本 妹が大好きで妹の情報なら隅から隅まで収集している……かもしれない 真面目な時は真面目だが、基本的にR18方向での冗談が多いタイプ 交流は物凄く簡単。というより出来ないわけがない 絆値も表示する意味のない値なので表示はない どれほどの値なのかは、4行上の一文が答え 選択肢(注意:画像が開きます) お兄ちゃん交流1スレ目:未交流
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「あ、あの、……」 そう言いかけてまた押し黙る。 何度か言葉をつなごうとして顔を上げるが、また伏せてしまう。こちらから見ていても気の毒になりそうなくらい顔が真っ赤になっている。 そんな動作を数度繰り返した後、意を決したように真剣な顔つきでこちらを見上げ、 「わ、私の、おおおお兄さんになってください!」 そう叫ぶと、また恥ずかしげに顔を伏せてしまった。 俺は、最初彼女の言ったことがよく理解できなかった。何度か頭の中で彼女のセリフを反芻した後、その意図するところを理解し、そしてその内容のあまりにも突拍子のなさに、 「は?」 俺は口をぽかーんと開けた状態で、その間抜け面をさらしたまま、彼女の前で固まっていた。 なぜ俺がこんなわけのわからない状況に巻き込まれてしまったのか、その訳を説明するためには昨日の朝に遡らなければならない。 その日の朝、そろそろ暖かくなりかけてきた初春の爽やかな空気の中で、ゆったりとした心地よいまどろみに溺れつつ、平日の睡眠不足を一気に取り戻そうと、俺は惰眠をむさぼっていた。 今日も今日とて貴重な休日である土曜日であるにもかかわらず、いつものように「市内の不思議探索」とかいう無駄な予定が入っているのだが、集合時間までは まだ余裕があるので、間に合うぐらいまでに起きればいいだろ、とりあえずぎりぎりまで寝ていようと、暖かな布団にくるまっていた。 そこへ毎朝恒例、我が家の生体目覚ましが、どたどたと騒音をたてて俺の部屋にやってきた。 「キョンくーん!」 叫ぶと同時に俺の腹の上にフライングボディプレスが敢行される。 「ぐえっ!」 その瞬間、息がつまり、俺はもんどり打って身体を折り曲げた。 「キョンくん、起きてっ!」 この生体目覚ましは、兄に強烈なダメージを与えただけでは飽き足らず、一気にとどめを刺そうとでもいうのか、さらに俺の腹の上で暴れまわっている。 俺はたまらず、 「おおいっ、やめろっ!起きた!もう起きたって!」 叫ぶと同時に妹の体を掴み、これ以上暴れさせないように固定した。 「なんだ、今日は休みだぞ、頼むからゆっくり寝かせてくれ。」 「ねえねえキョンくん、明日なにか用事ある?」 俺の言うことなどてんで無視を決め込んで、腹の上に乗ったまま、大きなどんぐりまなこでまじまじと俺の顔を覗きこんできた。相変わらずの童顔だ。まだ小学 生だから仕方がないともいえるのだが、しかしもう6年生だぞ、背も低いし、つるぺたの寸胴、仕草も低学年のガキの域を出ていない。同級生の中でもおそらく1、2を争うほどのちんちくりんなんじゃなかろうか。はたしてこいつは将来無事にきちんとした大人の身体に成長してくれるのだろうか。兄は心配だぞ。 寝起きの頭でボーっと考えていたところ、自分の問いかけに答える素振りがない兄に業を煮やした妹が、さらに腹の上で暴れてくる。 「ねえっ、キョンくんってば!!」 ごふっ。いくらちんちくりんで体重の軽い妹でも、これ以上腹の上で暴れられては俺の身が持たん。 「おい、俺の上で暴れるのはやめてくれ。吐きそうだ…」 「ねえ、キョンくんってば、明日は用事あるの!?」 やっぱり聞いてねえ、さらに暴れまわろうとする妹の行動を制しようと、俺は上半身を起こした。腹の上に乗っていた妹は、バランスを失って後ろ向きにころんと転がる。 「わかったわかった、別に日曜は何にも用事はないよ!暇だ、暇だ。」 ベッドの端っこに寝転がった妹は、その変な姿勢のまま、 「じゃあ明日はどこにも行かないでね!」 そう叫ぶや否や、ひょいっとベッドから降り、すたこらっと部屋から出て行った。 「おい、一体日曜に何が…」 問いかけが終わらぬうちに、妹の姿はもう見えない。 まったく、人の言うことはきちんと聞くように、あとできっちり教育してやらなきゃならんな。しかし明日はどこにも行くなって、何をたくらんでるんだ?どこかに遊びに連れて行けとでもいうんだろうか? まあ最近は妹の相手をしてやることも少なくなったし、少しは遊んでやるか。 その後、ハルヒ閣下指導による市内不思議探索に出かけ、規定時刻前に集合したにもかかわらず遅刻として罰金と称して全員分の喫茶店代をおごらされ、長門と 図書館で暇つぶしーの朝比奈さんと公園での散策デートを楽しんだりしーのしつつ、結局いつもどおりなんら成果を挙げることなくこの日も解散した。 その別れ際に、ハルヒが、 「キョン、明日はなにか用事あるの?」 いかにも明日も何か厄介なことに巻き込まれそうな感じで聞いてきたので、俺はあると答えたら、 「なんの用事があるのよ、それは団長たる私を差し置いて優先しなければならないような用事なの?」 なぜか突っかかってきたので、妹につきあわねばならないこと、最近は満足に相手をしてやっていないから妹も寂しい思いをしていることなど、多少の誇張や虚偽を交えて弁解した。正直二日連続でハルヒ閣下の気まぐれにつきあわされるのは嫌だからな。 「あ、そう。妹ちゃんの相手なら仕方がないわね。じゃあいいわ。」 とか言って、ハルヒはさっさと駅の方へ歩いていってしまった。えらくあっさり引き下がったものだな。 その日はそのまま帰宅し、飯食って風呂入って寝た。寝しなに妹がもう一度、明日はどこにも行かないよね、と確認してきたので、行かないよ、と答えたら満足して自分の部屋に戻っていった。結局、また明日なにをするのか聞かないうちに、妹は行ってしまった。 しょうがない、明日はあいつが満足するまでつきあってやるか、貴重な休みを連続して他人に振り回されるのはなんとも口惜しいが、まあハルヒと違って妹なら俺が行動をコントロールすることができそうだからな、今日のように無駄に疲れるようなこともないだろう。 翌朝、窓のカーテン越しにふりそそいでくる暖かな日差しを浴びつつ、柔らかな布団の中で徐々に眠りから覚醒状態に移行しようとしかけていたとき、俺は近くで誰かがなにか話しているのに気づいた。 「……だ寝てる……」 「……丈夫だよ、すぐ起き……」 まだ頭が完全に覚醒していなかったため、なにを話しているのか理解できず、また誰が話しているのかもわからなかった。 「…魔しちゃだめ……」 「…つもこうしたらキョンくん起き……」 ボーっとした頭で、複数の人間がいるというのはなんとなくわかった。誰だろうなあと考えていた矢先、 「キョンくーん、起きてっ!」 生体目覚ましが俺に向かって毎朝恒例のダイビングボディプレスをかましてきやがった。 「ぐおっ!」 腹部に激痛が走り、思わずうめき声を出す。 「キョンくん、起きてよ!」 そんな兄の窮状にかまわず、妹は俺の腹の上でいつものように暴れまわる。ここまではいつもの朝の風景だったのだが、そこに第三の人物が登場する。 「…ちゃん!だ、ダメだよ…お兄さん、痛がってる…」 ん? 聞きなれない声が聞こえたので、苦しさに耐えつつそちらの方に顔を向けると、そこには妹の突然のダイブにおろおろしている一人の少女が立っていた。すらっとしたスレンダーな体つき、身長は妹よりも10センチは高いな、中学1,2年というところか。顔を見て、何か見覚えがあるなあと、思い出そうとしていまだ完全に覚醒していない脳みそのエンジンをフル回転させようとした矢先に、また妹が、 「起きてー、キョンくん!」 俺の上で暴れるもんだから、またまた苦しさに悶絶し、たまりかねて上半身を起こす。妹はいつもどおりベッドの上をコロンと転がり、少女はおろおろあわあわしながら焦っている。その仕草がなんとなく朝比奈さんを思い起こさせて微笑ましい。 「起きたよ!朝っぱらから暴れるな!お前は!」 妹を叱りつつ、少女の方に顔を向ける。どこかで見た顔である。その少女のことを思い出そうと見つめていると、それに気づいたのか、少女はこちらを向き、そして恥ずかしそうにうつむいた。 えーっと、誰だっけ?んーーーーーーー…と悩んでいると、 「お、お兄さん、おはようございます。」 その少女は、うつむき加減のまま、時折チラッとこちらを見てはまた恥ずかしそうに目線を伏せつつ、朝の挨拶をしてきた。 「あ、ああ、おはよう…」 不意を突かれた感じになって、思わず挨拶を返した。きちんと挨拶のできるしっかりした娘だなあ。うちの妹に見習わせてやりたい、などと思っていたら、ふと、 (んん?妹?しっかりした娘?…) もう一度その少女をじーっとみつめる。 「君はミヨキチかあ!」 俺は、ようやく思い出した。 「え?あ、…はい…」 ミヨキチ、本名を吉村美代子という。妹の同級生で友達でもある。以前から大人びた娘だとは思っていたが、ここ半年ぐらい見ない間にまたずいぶんと成長した ものだ。胸なんか結構膨らんできて、腰のくびれもうっすらとだがわかるようになってきている。いまだに胸なんかふくらむ気配もない妹と比べたら、月とすっ ぽん並みに違いがあるぞ。こいつの将来がホント心配になってくる。 「ずいぶん大きくなったなあ。それに綺麗になって…」 正直な感想を思わず吐露してしまうと、 「え?あ、ああありがとうございます……」 ミヨキチは、ぷしゅーっと湯気が出そうなぐらいに顔を真っ赤にして小さくなって顔を伏せた。 「あ、あの、今日はこんな朝早くに起こしてしまって申し訳ありません。」 控えめに謝辞を告げるミヨキチ。だいぶテンパッテル様子だが、それでも敬語でしゃべるのを忘れないのは、親のしつけが行き届いている証拠だな。誰にも遠慮なく気軽に話しかける妹にまたまた見習わせてやりたいぐらいだ。 というか、「起こしてしまって」って…… 「ん?今日はなんか妹が俺に用があるとか言っていたが、俺に用があるのはミヨキチの方なのか?」 そう問いかけると、ベッドでぶっ倒れていた妹がもそもそ起き上がってきて、 「えっとね、今日ね、美代ちゃんのお誕生日なの。」 突発的に説明しだした。 「へえ、それはおめでとう、ミヨキチ。」 話の筋が見えず、わけがわからなかったが、とりあえず祝福の言葉をかけた。 「あ、ありがとうございます…」 いまだ顔が真っ赤でうつむいているミヨキチ。ていうかこの娘はなんでこんなに恥ずかしがっているんだ? 「それでね、お誕生日プレゼントをあげようと思って、美代ちゃんに何がいいか聞いたの。」 ほうほう。なかなか友達思いではないか、わが妹は。 「そしたらね、美代ちゃん、一人っ子で兄弟がいないからお兄ちゃんが欲しいって言ったの。」 ミヨキチは一人っ子だったのか。確かにそれは寂しいだろうな。まあうちの妹のように騒がしい兄弟がいるのも考えものだが…しかしそれはちょっと妹には無理な相談じゃないかな。両親に頼んだら、もしかしたら弟か妹ぐらい作ってくれるかもしれないが。 「だからね、キョンく…」 と言いかけたところで、ミヨキチが妹を制止した。 ミヨキチは俺の前まで来て、意を決したように俺に話しかけようとした。 そして冒頭につながるのである。 そのあと、妹から、そしてミヨキチ本人から、理由を説明された。 それらをまとめると、要はこういうことだ。ミヨキチは一人っ子で兄弟がいないのに対して、妹には兄(つまり俺)がいる。そして妹が俺のことを楽しそうに話すのを聞いていて(一体どんな話をしているのやら)、いつもうらやましかったと。 ただそれだけなら別に俺じゃなくても欲しがるのは弟でも妹でもよかったのだが、ミヨキチは見た目も中身も同級生よりはるかに大人で、受け答えなんかもしっ かりしていることから、クラス委員を任せられていて、生徒や先生までもミヨキチを頼りにしているらしい。ミヨキチは、それはそれで別に嫌ではないのだが、 しかしいつも頼られていると疲れてしまうことがある。そんなときに逆に自分から甘えられる存在があればうれしいと思っていた。それなら親に甘えればいいと 思うかもしれないが、そこは微妙な乙女心というか、今まで築いてきたしっかり者の娘という立場を崩したくはないのだそうだ。 で、じゃあなぜ俺なのか、というと、さっきも言ったように妹がイロイロと俺の話をしていたこともあるのだが、以前小学生では入ることのできない映画に頼ん で連れて行ってもらったときに、こんな兄がいたらなあ、と思ったらしい。いや、特に優しくしてやったわけでもなく、俺は単に高校が始まるまで暇だったから つきあっただけなんだけどなあ。 まあ、そんなわけでミヨキチは妹に、妹としての立場を代わってくれとお願いしたそうだ。 顔を真っ赤にしながら、先ほどとは打って変わってこちらを真正面から見据えながら、 「今日一日だけでいいんです……ダメでしょうか……」 寂しげな表情を見せて、両手をぎゅっと握り締めつつ、こちらを見つめてくる。 「……いや、俺は別にそれぐらいかまわんが…」 そう言うと、不安げだった表情を一変させて、笑顔で、 「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」 謝辞を告げた。こういうのをはじけるような笑顔というのだろう。漫画的表現を使えば背後に綺麗な花が所狭しと配置されていそうな、そんな笑顔だった。 「よかったねえ、美代ちゃん。」 妹が言うと、 「うん、ありがとう!」 言い返すミヨキチ。妹に見せる態度は、小学生のそれそのものだ。 「ていうか、ミヨキチ、お前の兄貴になるって、俺は一体どうすればいいんだ?」 お願いされてそのまま何も考えずに返事をしてしまったが、考えてみれば『お兄さん』になるって具体的にどうすればいいのか、俺にはわからない。 「え?……あの……妹さんに、いつも接しているようにしていただければ…」 突然の俺の問いかけを、ミヨキチは予想していなかったらしく、またまた伏し目がちに顔を赤くした。 妹にいつも接しているように?って別に他のガキを扱うのと変わらんのだけどな。まあ兄妹な分、接する機会が多いので、イロイロしてはいるが… しばらく考えたあと、突然こう切り出した。 「よしわかった、ミヨキチ。」 「え?」 ずっと黙り込んでいた俺がいきなりしゃべりだしたものだから、ミヨキチはびっくりして顔を上げた。 「ミヨキチは俺にミヨキチの兄貴になれという。」 「は、はい。」 「俺はそれを了承したが、はたしてどうしていいのか、よくわからない。」 「は、はい。」 俺の言葉に対して、律儀に相槌を返すミヨキチ。 「ミヨキチは妹と同じように扱ってくれという。」 「はい。」 真面目な顔をして返事をする。こういうところにもミヨキチの性格の素直さが現れているね。 「ところで、実は俺は今日、妹に一日つきやってやろうと思っていた。最近は学校の連れとのつきあいが多くて余り構ってやれなかったからな。」 「はい。」 「それで今日は妹の好きなところに連れて行ってやろうと思っていたんだ。」 「はい。」 「というわけで、ミヨキチは今日はなにがしたい?どこにでも連れて行ってやるぞ。つってもあまりに遠いところは無理だが。」 「はい。……あ……えっと……」 いきなりの質問にミヨキチは意表をつかれたらしく、口ごもる。 「…………」 しきりに考えているミヨキチ。と、顔を上げたかと思うと、おれと目が合った途端にまた顔を伏せて、 「…映画に連れて行ってもらえますか?」 「映画か?お安い御用だ。」 「あ、ありがとうございます…」 嬉しそうにうつむくミヨキチ。顔は相変わらず真っ赤だ。 「んー、でも映画だけだと午前中で終わっちまうな。どこか他に行きたいところはあるか?」 「え?」 またも予想していなかった俺の問いかけに戸惑うミヨキチ。 「いや、映画のハシゴとかでもいいんだがそれも飽きるだろ?それとも兄妹関係は午前中だけでいいのか?」 「え?え?い、嫌です。えっと、あの…」 必死で考えるミヨキチ。この辺の仕草も朝比奈さんを思い起こさせて微笑ましい。いきなりどこ行きたいかなんて聞かれてもすぐには思いつかないだろうな。まあいい加減ミヨキチを困らせるのもなんだから、ここらで助け船を出してやろう。 「じゃあ、隣町の遊園地はどうだ?映画は座りっぱなしだから次は身体を動かして遊ぶっていうのは。」 俺の提案に困り顔で考えていたミヨキチが、ぱっと顔を輝かせて、 「は、はい。それでお願いします!」 「オッケー。じゃあそういうことで、とりあえず見たい映画はあるか?」 「えっと……」 こういった感じで見たい映画も決まり、外出の準備をしようという段階になって、それまでベッドの上でこちらのやり取りをにこにこしながら見ていた妹に、 「おい、今から出かけるからお前も準備しろよ。」 声をかけると、妹はきょとんとした顔で、 「私は行かないよ。」 お、予想外の答え。 「へ?なんでだ?なんか用事でもあるのか?」 「今日はキョンくんの妹は美代ちゃんで私じゃないの。だから行かないの。」 との答え。 「そうなのか?いや、それはそれで俺は別にかまわんが。んじゃあ、シャミセンの相手でもして大人しくしてるんだぞ。お土産買ってきてやるから。」 「はーい。」 妹のことだから喜んでついてくるもんだと思っていたが意外だったな。まあ子供の世話は少ない方がいいからよかったが…。といってもミヨキチが俺に世話をかけるとも思えんが。 「いってらっしゃーい。」 妹が、玄関先で、シャミセンを抱えてその前足を持って“バイバイ”をさせながら、俺達を見送っていた。シャミセンはえらく迷惑そうだったが…。 最初の目的地である映画館に行くため、最寄り駅に向けて歩き出した。ミヨキチは、俺の後をてくてくとついてくる。 「俺、歩くの早いか?」 はたと相手がまだ小学生であったことに気付き、後ろを振り返って語りかける。 「い、いえ、そんなことありません……」 うつむきつつしゃべるミヨキチ。……なにか話したそうな素振りだったので、 「ん、なに?」 そう言うと、ミヨキチは、 「え、あ、あの、えっと……」 もじもじとしながら口ごもったが、意を決したように俺の方を向き、 「お、お兄さん、て、ててて手をつないでもらってもいいですかっ?」 どもりつつ一気にまくし立てたミヨキチであったが、言い終わった途端に恥ずかしがってまた顔を伏せてしまった。 「え?あ、ああ…」 突然のお願いに戸惑う俺。 別に手をつなぐぐらいは構わんのだが。妹なんか俺の手を引っ張って強引に連れて行くぐらいだからな。 ん?そういえば今日は単にミヨキチを遊びに連れていくだけじゃなかったな。ミヨキチを「兄」として遊びに連れていくんだった。 一つの案が浮かんだ。今日はついでに俺の妹に対する普段からのささやかな望みを、ミヨキチにかなえてもらうことにしよう。 「いいよ、手をつないでも。ただしそれには条件がある。」 「え?」 一瞬笑顔になったが、すぐに困惑顔になる。 「俺のことをこれから“お兄ちゃん”と呼ぶこと。」 「え?え?」 俺の突飛な申し出に驚くミヨキチ。 「今日、ミヨキチは俺の妹になんだから、そう呼んでもおかしくないだろ?」 「え?あ、あの、え?」 戸惑うミヨキチ。いやさ、俺の妹は、俺のことを“キョンくん”とかまるで友達のように呼んできやがるものだから、やはり兄としては呼ばれたいわけなんだよ、“お兄ちゃん”と。 「え、えと、あの…」 やはりさすがに赤の他人をお兄ちゃんと呼ぶのは恥ずかしいか?と、思い立ち、この条件を免除してやろうと口を開きかけたところ、 「…お兄ちゃん……」 ほとんど聞き取れないような声でミヨキチはつぶやいた。 自分で要求したとはいえ、実際に呼ばれると照れてしまうな、これは。 「お兄ちゃん。」 今度ははっきりとしゃべるミヨキチ。それと同時に俺に向かって右手を差し出してくる。 一瞬その意味を理解できなかったが、すぐに気づき、ミヨキチを見る。と、ミヨキチは恥ずかしげな表情と不安そうな表情を混ぜたような顔を俺に向けていた。 「おう、ミヨキチ…っつーか妹にミヨキチはおかしいな。美代子だな。おう美代子、じゃあ行くか。」 差し出された手をつかみ、歩き出そうとする俺。 「はい!…あ……」 兄に向って敬語はないだろう、と突っ込もうとする間もなく、ミヨキチ自身がそれに気づいたようで、 「うん!お兄ちゃん!!」 ミヨキチはこぼれるような笑顔で、俺の手を握り返してきた。 俺とミヨキチは、仲良く手をつないで駅に向かって歩いていた。そして駅前の広場に到着したところでいきなり背後から声をかけられた。 「キョン!」 なぜか、我らが団長様、ハルヒ閣下の御登場だ。 「あんた、こんなところでなにやってんの?」 お前こそなにやってんだよ。お前ん家は一駅先だろうが。 ハルヒは、俺のそばに人がいるのに気づいて、今まで笑みが入っていた顔が一瞬にして曇る。 俺はやばいと思って手を離そうとしたが、ミヨキチが離してくれなかった。ミヨキチは、俺の斜め後ろから不安そうにハルヒの方を見ている。 つーか別にやばいと思う必要はないよな、疾しいことをしているでもなし、小学生を遊びに連れていってるだけだからな。そもそも俺がハルヒになにを遠慮することがある? そんな俺の思いとは裏腹に、ハルヒはずんずんと俺に近寄ってきて、 「キョン!あんた、今日は妹ちゃんの相手をするって言ってたじゃない!あれはウソだったの!!?」 両手を腰にあてて俺をねめつけるように捲くし立てる。 「平の団員のくせに、団長にウソつくなんて何様のつもり!?しかも妹ちゃんをだしに使って、自分は仲良く女の子とデートって。ここ最近、休みの日はあんたを連れ回してたから、妹ちゃんに悪いことしたかなって思って、今日は遠慮したのにっ!!」 今にも喰いつきそうな勢いだ。 「まあ、待て、ハルヒ。俺の言うことをき…」 「言い訳するんじゃないわよ!しかも連れてる子はなに?まだ中学生じゃない!このロリコンのエロキョン!!」 「だから、とりあえずおちつ…」 「問答無用っ!今からあんたのその腐った根性を修正してやるからっ!」 叫ぶや否や、俺に殴りかかってくるハルヒ。防戦一方の俺。と、そこへ、 「お兄ちゃんをぶたないでっ!」 ミヨキチがハルヒの腕にすがりついている。ハルヒはミヨキチの行動と言動に驚いて、 「お兄ちゃん?」 俺への暴行を止めてミヨキチの方を向いた。 「私がお兄ちゃんにお願いしたんです!だからお兄ちゃんをぶたないでっ!!」 突然の闖入者の思いがけない発言に目を丸くするハルヒ。すがりついた相手が既に動きを止めているのに気づいたミヨキチは、はっと自分がした行動や発言を思い出し、 「す、すみませんっ!」 叫びながらぺこぺこと頭を下げる。 「わ、私、お兄ちゃん…じゃなくてお兄さんの妹さんの同級生で吉村美代子っていいます。今日は、お兄さんにお願いしておつきあいしていただいていたんです。」 あわあわしながら、事の経緯を説明するミヨキチ。それをあっけにとられた表情のまま聞いているハルヒ。 「……ふーん、一日お兄ちゃんねえ…そうなんだったら最初から言いなさいよ、まったく。」 って、おいっ、お前が問答無用で殴りかかってきたんだろうが。 「で、本物の妹ちゃんはどうしたの?」 ぶつぶつ文句を垂れる俺を軽く無視して、ハルヒが聞いてきた。 「…妹か?やつは今日は留守番だ。」 今度は俺が今朝のやり取りを説明する。 「まあ、事情はわかったわ。とりあえず、キョン!今日はきちっとミヨキチちゃんのお兄さん役をやるのよ!」 「お前に言われなくてもそうするつもりだよ。」 ハルヒは俺をにらみつけたかと思うと、その視線を俺からミヨキチの方に移して、 「それにしても…」 ミヨキチをじろじろと品定めするように見ながら、 「妹ちゃんの同級生っていうことはまだ小学生なのね。最近の小学生は発育いいわねー。」 言いながらミヨキチの背後に回ったかと思うと、突然ミヨキチの胸を両手でわしづかみにした。 「ひゃあっ!」 あまりの出来事に悲鳴を上げてわたわたするミヨキチ。そんなミヨキチの悲鳴などどこ吹く風というように、ハルヒは胸を揉みしだいた。 「胸もこんなに大きくって、高校生ぐらいになったらみくるちゃん並の爆乳になるんじゃないかしら。」 「あわわわわわわ。」 そ、そんなに成長しているのか、ミヨキチ…お兄ちゃんもこの手で確かめてみた…じゃなくて、 「おい、ハルヒ!いい加減にしろ!」 俺はミヨキチの胸を揉みしだいているハルヒの手をつかむ。 「いいじゃない、ちょっとぐらい、減るもんじゃなし。」 「兄として、痴女から妹を守るのは当然だろう。ミヨキチを解放してやれ。」 「誰が痴女よ!…ってまあいいわ。」 ミヨキチの胸から手を離すハルヒ。その途端にミヨキチはふにゃあっとその場にへたりこんだ。 「とにかく、ちゃんとするのよ!お に い ち ゃ ん !!」 わざとらしく最後の言葉を一字一字区切って強調すると、ハルヒはずんずんと歩いて行ってしまった。 茫然とハルヒを見送っていたが、路上にへたりこんでいるミヨキチに気付き、 「大丈夫か?ミヨキチ。」 しばらく放心したようだったミヨキチは、俺の声にハッと気づいて、 「だ、大丈夫です。」 よろよろと立ちあがり、服を整えるミヨキチ。 「すまんなあ、あいつ、ホント勝手なやつで…」 「…あの人が、涼宮ハルヒさんですか?」 心なしか、顔を伏せて表情が暗いミヨキチ。 「あ、ああ、ハルヒのこと知ってるのか?」 「あ…えっと…妹さんに…」 相変わらず顔を伏せているミヨキチ、と、急の右手を差し出して、顔を上げ、にっこりとして、 「行こ!お兄ちゃん。」 「あ?ああ、行こうか、ミヨキ…じゃなくて美代子。」 おれは差し出された手を握った。握り返してきたその手は、とても小さく、少し汗ばんでいた。 キョンくんと美代ちゃんをお見送りしてから、私はずっとシャミと遊んでいた。 今日はなにもすることがないなあ。宿題も終わっちゃったし。お父さんもお母さんもご用でお出かけしてるし。 ゲームを引っ張り出してきて、しばらくやってたけど、つまらなくなって止めた。そのままテレビをぼーっと見てたけど、面白くなかったから消した。ベッドに行ってシャミとゴロゴロすることにした。 「シャミの手はすべすべで気持ちいいね。」 ぷにぷにする肉球に頬ずりする。それからお腹をすりすりしたり、頭をわしゃわしゃしたりしてたら、シャミが「にゃあ」って言って、するりと私の手をすり抜けて部屋を出て行ってしまった。 シャミ、またキョンくんの部屋に行くのかな。キョンくんのベッドがお気に入りだもんね。 ベッ ドの上でしばらくぼーっとして、またシャミを追いかけてキョンくんの部屋に行った。シャミは予想通り、キョンくんのベッドの上にいた。あごを枕の上に乗せ て、気持ち良さそうに目を閉じていた。シャミは、私が来たのを見ると、一瞬だけこちらを見たが、「にゃあ」って言ってまた同じ姿勢に戻った。 私もベッドの上に潜り込んで、シャミの横にどてっと寝ころんだ。シャミは迷惑そうに「にゃあ」とまた言ったけど、私のために枕を空けてくれた。ありがとね、シャミ。 それから、そのまま気付かないうちに寝てしまった。 キョンくんの布団、自分のじゃない匂いがする。そういえば前に一緒に寝たのはいつだったかな。最近は全然一緒に寝てくれないの。黙って潜り込んでもいつも抱えられて自分のベッドに返されちゃう。 小 さな頃はよく一緒に遊んでくれたのに、高校に入ってからは休みの日もあまりかまってくれなくなった。いつもはるにゃん達と一緒にお出かけしてる。たまーに 一緒に連れて行ってくれたりするけど、それでもキョンくんは、はるにゃんとかみくるちゃんとか有希ちゃんとかとおしゃべりしてて、あまり私のことをかまっ てくれないの。 私のこと、嫌いになっちゃったのかな? ………… ………… 遠くで何か音が鳴っているのが聞こえる。 ぴんぽーん。 はっと目が覚める。 家のチャイムが鳴ってる。お客さんだ。 ベッドから飛び起きて、階段を下り、玄関に走って行った。 「はーい。」 ドアを開けると、そこにははるにゃんがいた。 「はるにゃん、キョンくんなら今日はお出かけ…」 「妹ちゃん、久しぶりね、元気にしてた?……って、泣いてるの?」 「え?」 自分の顔を触ったら濡れてた。泣きながら寝てたみたい。 「ううん、違うよ。さっきまで寝てたから…」 「ふーん…」 私の顔をじっと見つめるはるにゃん。 「キョンくんは今日はお出かけしてるよ。」 「今日はキョンなんかに用はないわ。妹ちゃん、あなたに用があるの!」 「え?」 「さあ、来なさい!」 「え?え?」 はるにゃんが腕を引っ張って、私を強引に連れ出そうとする。 「なに?はるにゃん、どこ行くの!?」 なんとか踏みとどまろうとして、足を突っ張らせる。 「遊びに行くのよ!ほら、大人しくついてきなさい!!」 「え?ちょ、ちょっ…」 抵抗もむなしく、私ははるにゃんにずるずると引きずられていった。 私を引っ張るはるにゃんの手は、とても温かかった。 俺とミヨキチは映画を見ていた。どんな映画かって言うと、毎度おなじみの、ホラー映画だ。……なんでミヨキチはホラー映画が好きなんだろう?前に一緒に行った時もそうだったよな。 かといってホラーが好きで好きでたまらなくて目を爛々と輝かせて見入っているといった感じでもなく、時々小さな悲鳴をあげて俺にしがみついてくるぐらいだから、少なくとも一般人並みの感覚の持ち主ではあるみたいだが。 映画を見ている間、最初は手を握っていたのだが、恐怖シーンがあるたびに俺にしがみついてきて、そのうちミヨキチは俺の腕を両手でかかえながら映画を観賞するというスタイルになっていった。 そんなもんだから、俺の腕がミヨキチの体にぴったりと密接している状態になってしまって、なんか困ったやらうれしいやらで… 通常だったら小学生に抱きつかれたってなんとも思わんのだが、ミヨキチが年の割にかなり発育状態がいいってのは先ほどハルヒが直接確かめて確認しているわ けで、その、なんだ、俺の上腕あたりにな、ふにふにとしたな、柔らかいな、物体がな、それも左右からな、接触している感覚がな、ずーっとあるわけなんだ よ。いやあ、外見からもかなり大きいなあとは思ってはいたんだが、これは相当なものだな、おい。2,3年したら朝比奈さんを軽く抜くんじゃないか?少なくとも現状だけでも長門よりははるかに…いや、これは禁句だったな。 そんな至福状態も、映画の終了とともに終了となった。しばらく映画の余韻を味わっていたミヨキチは、はたと自分が両手で抱えている俺の腕に気づいて、 「あわわわわ、ごごごごめんなさいっ!」 焦ってぱっと離してしまったからだ。 「いやいや、いいよいいよ。」 心底残念に思いながら、表面上はさわやかに、 「こんな腕でよかったら、また使ってくれい。」 魂からの願望を混ぜつつ、言った。 「あ、ありがとうございます。」 顔を真っ赤にしながら、照れるように頭を下げるミヨキチ。 「また、敬語なんか使って、違うだろ?美代子。」 「え?あ、え……はいっ…じゃなくって、うん!お兄ちゃん!」 「じゃあ、とりあえず昼だしどっかで飯でも食って、遊園地に行くか。」 「うん!」 私ははるにゃんに引きずられるようにして道を歩いていた。 「は、はるにゃん、遊びに連れて行ってくれるのはわかったから、どこに行くのか教えてよおっ!」 「黙ってついてきなさいっ!ついてくればわかるから!」 はるにゃんは言いつつ、歩いていった。私は小走りで(だってそうしないと追いつけないんだもん)ついていった。そして、辿りついたのは駅だった。 駅前の広場に到着して、はるにゃんは足を止めた。そして周りを見回した後、 「あ、いたいた、こっちよ、みんな!」 そう叫んで、その方向に手を挙げた。そちらの方を見ると、二人の女の人がこちらに歩いてくるのが見えた。 「妹ちゃん、お久しぶりね。」 「……」 みくるちゃんと有希ちゃんだ。 みくるちゃんはね、優しくって、柔らかくって、あったかいんだ。いつも私の話をにこにこしながら聞いてくれる。私が甘えると、ぎゅって抱きしめてくれるんだ、お母さんみたいにいい匂いがするの。 有希ちゃんもね優しいんだよ。あまりおしゃべりしないし、いつも難しい本読んでるけど、キョンくんを見る目がね、すごく優しいの。キョンくんも、SOS団の中で長門が一番頼りになるとか言ってたし。あと、キョンくんが、有希ちゃんがなに考えているか、微妙な表情の違いでわかるのは俺だけだ、とか言ってたけど、私にもわかるんだよ。 「みくるちゃん、有希ちゃん。」 二人の方に駆け寄っていくと、みくるちゃんがいつものように私を抱きしめてくれた。 有希ちゃんも、とてとてって私の方に寄ってきて、私の頭をよしよしって撫でてくれた。あ、なんか今日は私に対しても、優しい目をしてくれてる。 「今日はみんなで遊びに行くわよ!」 はるにゃんが私達に向って言った。 私とみくるちゃんはあっけにとられて驚いてたけど、有希ちゃんはいつも通り表情を変えてなかった。 「え?どういうことですか?涼宮さん。」 みくるちゃんが聞き返す。 「どういうこともなにも、今日は遊びに行くことに決めたの。あ、あと、今日私達は、妹ちゃんのお姉ちゃんだから。」 ますます頭の中がハテナだらけになるみくるちゃんと私。有希ちゃんは相変わらず無表情だけど。 「とにかく行くわよ!」 強引に私達を引っ張って駅に向かうはるにゃん。あわあわと引っ張られていく私とみくるちゃんに、黙ってついてくる有希ちゃん。 そして私達は電車に乗り込んだ。 とりあえず俺達は遊園地に到着したのだが、はたと、どうしていいかわからない。遊園地など、親に連れられて行ったことはあるが、積極的に誰かを連れて行った経験などなく、ここでどういう行動をなすべきか、しばし悩んだ。そしてその解決を図るべく、ミヨキチに問いかけた。 「ミヨキチ…じゃなくて美代子だったな、美代子は何に乗りたいんだ?」 「え?あ…えっと…」 口ごもって考えるミヨキチ。俺も悩む…こういうとき、妹だったら俺の手を引っ張って、自分の行きたい所に勝手に行くんだろうが… 「うーん、メリーゴーランドとか、乗る?」 「え?…うーん…」 乗り気でない様子。どうしてだろう。 「あの、えっと、おにいさ…お兄ちゃんと一緒に乗れる乗り物がいいで…いい。」 「一緒に乗れる乗り物?そうだなあ…」 そういえばミヨキチはひとりっ娘だったな。スキンシップに飢えてるのだろうか。 おれは周囲を見回し、最初に目に入った乗り物を指差して、 「んじゃあ、コーヒーカップにでも乗るか?」 そう誘うと、ミヨキチはそちらの方を確認して、 「うん!」 極上の笑顔で同意した。ホント可愛い笑顔だよな、おそらく同級生の男なんかはかなりミヨキチに思いを寄せてるんじゃないか?とりあえず俺が同い年だったら、確実にイカレてるな、うん。 コーヒーカップに乗り、はしゃぐミヨキチ。妹と一緒にいるときの、年に似合わないどこか大人びた雰囲気や表情とは違った、年相応の子供っぽいミヨキチがそこにいた。 その後、慣れてきたのか、ミヨキチは俺の手を引っ張り、次から次へと様々な乗り物やアトラクションに興じていた。 何度目かの乗物から一緒に降り立ち、次はどこへ行こうかとミヨキチと案内冊子を見ていたところ、 「キョンくん。」 突然、鈴が鳴るようなかわいらしい声が俺に対してかけられた。 振り返ると、そこに立っていたのは、普段ハルヒに振り回されっぱなしの殺伐とした高校生活において、俺に癒しと安らぎを与えてくださるマイエンジェル、朝比奈さんだった。 電車に強引に連れ込まれてから、はるにゃんにどういうことなのか聞いた。そしたら、 「私、兄弟っていないから、一回妹を持つとどういうものか、試してみたかったのよね。」 って言ってた。そういうものなのかな?とか思ったけど、でもそれじゃ、なんでみくるちゃんや有希ちゃんも?って聞くと、 「どうせ遊びに行くなら大勢の方が楽しいじゃない。それに兄弟も大勢いた方がいいでしょ?お姉ちゃんが3人もいるのよ。」 ん?ん?ってよく分かったようなよく分からないような返事だったけど、でもどうせ今日は何もすることなかったし、はるにゃんと一緒にいると面白いしね。野球に混ぜてもらったときもすごく面白かったし。 「そういうわけで妹ちゃん、今日は私達のことは“お姉ちゃん”って呼ぶのよ、いい?」 へ?お姉ちゃん?それは別にいいけど、みんな“お姉ちゃん”でいいの? 「そうね、それぞれ“お姉ちゃん”の前に名前をつけなさい。私のことは“ハルヒお姉ちゃん”、有希のことは“有希お姉ちゃん”、みくるちゃんは“みくるお姉ちゃん”ってね、一回呼んでみて。」 呼んでみるの?それじゃ、ハルヒお姉ちゃん。 「うん、なかなか気分がいいわね。妹ちゃんはちっちゃくって可愛いから、なんかこう、“お姉ちゃん”って呼ばれると庇護欲がそそられるわね。有希やみくるちゃんにも言ってあげなさい。」 言われるがままに言ってみた。有希ちゃんはほとんど表情を変えなかったけど、またキョンくんに向けるような優しい目をしてくれた。みくるちゃんはにっこり笑って、 「はいはい、妹ちゃん。」 って言って、頭を撫でてくれた。なんか年上の人にこんな感じに扱ってもらうと、なんかこそばゆっくてうれしいね。 何度目かの駅で人が大勢乗り込んできて電車の中が満員になったら、はるにゃ…じゃなくてハルヒお姉ちゃんが、 「はぐれないようにつかまりなさい。」 っ て言って、手をつないでくれた。ほとんど同時に違う手の方も握られた。有希ちゃ…有希お姉ちゃんだ。そして後ろから私の首に手をまわして乗客の圧力から 守ってくれるのがみくるお姉ちゃん。ハルヒお姉ちゃんと有希お姉ちゃんの手や、背中に感じるみくるお姉ちゃんの身体は、ふわふわ柔らかくて、とっても暖か かったよ。 ハルヒお姉ちゃんに連れられて行った場所は遊園地だった。いろんな乗り物に乗ったよ。ハルヒお姉ちゃんはヤッホーとかいろいろ叫んで面白がってたし、有希 お姉ちゃんは怖い乗り物でも全然怖がらなかった。みくるお姉ちゃんはひゃあーーーーっとか悲鳴をあげてたよ。私はみくるお姉ちゃんに抱きついて一緒に悲鳴 を上げたりしてた。 椅子に座って休憩していたら、ハルヒお姉ちゃんが、 「私、なにか飲み物買ってくるわね。」 って言って、早足でジューススタンドの方に向かっていった後、みくるお姉ちゃんがふと、遠くの方を見て、 「あれ?」 って、つぶやいた。 そして、みくるお姉ちゃんが歩いて行ったので、そちらの方を見ると、キョンくんと美代ちゃんが、手をつないで歩いてた。 そこには驚いた表情をした朝比奈さんが立っていた。 見られて困る状況に遭遇した気持ち…っつーか別にやましいことはないよな。でもなぜか焦る俺、 「あ、朝比奈さん、奇遇ですねえ…」 「え?ああ。そうか…」 なんか、朝比奈さんは一人で納得されている様子。な、なんすか? 「朝比奈さん?」 「あ、えっと…皆さんを呼んできますね。」 そう言うと、朝比奈さんは向こうの方に駆けて行ってしまった。俺は訳が分からず茫然とそのかわいらしい後姿を目で追っていたが、ふと、手を強く握られているのに気づいて、ミヨキチの方を振り返った。ミヨキチは、不安そうな顔で俺を見上げていた。 「あ、あの人はな、高校の先輩で…」 なぜか焦って言い訳のようなしゃべり方をする俺。そんな挙動不審の俺に対して、ミヨキチは目をそらさず、まっすぐ俺を見つめてくる。なんかその眼が、普段の俺の朝比奈さんに対する邪まな思いを見透かされている気がして、ますます焦る。 そこへ、救世主のように、朝比奈さんがまた戻ってきた。 「キョンくん、今日は妹さんと遊びに来ているんですよ。」 へ?妹? 朝比奈さんの背後の方を見ると、遠目に妹と、…あれは長門か?が、手をつないで(!?)歩いてくるのが見えた。 「また、なんで?」 「いえ、涼宮さんがいきなり…」 言いかけたそのとき、妹と長門の背後から、 「こるあああああああっ!キョーンっ!!」 という、叫び声が聞こえたかと思うと、ハルヒが飛ぶように走ってきて、妹を自分の後ろに隠すように確保すると、 「キョン!私の妹になにするつもりっ!?」 睨みながら叫んだ。 「なにするって、なにもする気はないが…って妹?」 「そうよ!妹ちゃんは今日は私達の妹なんだから。妹ちゃん、あいつには気をつけなさい!あいつは、小学生にお兄ちゃんって呼ばせて喜んでる、変態のロリコンよ!」 おいおい、ひどい言い草だな。 ハルヒの突然の登場に驚きつつ周囲を見ると、朝比奈さんはちょっと困ったように苦笑しており、妹はハルヒの体から身を乗り出してこちらを見ている。長門は いつも通りこちらをじーーーっと観察しており、ハルヒは俺を睨んだままだ。一方ミヨキチはというと、俺の右腕を両手でかかえ、俺の背後に隠れるようにして ハルヒの方を見ていた。どうも驚くとかすると何かにすがりつく癖があるらしいね、おかげでまた腕が左右から柔らかいものに包まれてニヤケ顔になりそうにな るのをなんとかこらえる。 そんな俺の心情を鋭く察知したのか、ハルヒは、 「こんなのと一緒にいたら、変態がうつるわ!みんな、行くわよ!!」 言うや否や、ずかずかともと来た方向に去っていった。ていうか、変態がうつるって… こちらをじーーーーっと見つつもハルヒの後を追っていく長門、ジェスチャーでごめんなさいをしつつ小走りでハルヒを追っかけて行く朝比奈さん。妹はハルヒに引きずられながらこちらをずっと見ていた。 その後、俺たちはそれまでと変わりなく、いろいろな乗り物やアトラクションを楽しんだ。ミヨキチも楽しんでいたようだが、なぜかそれが表面だけのように見えたのは気のせいか?その感じは、時間が経つにつれて段々と大きくなっていった。 「どうした?疲れたか?」 もうそろそろ夕刻になろうという時間、さすがにこれ以上遅くまで小学生を連れ回すわけにはいかない。 「…ううん、そんなことないよ。」 ミヨキチは言うが、外見からは明らかに疲労の色が見える。 「もう時間もないし、そろそろ帰るか?」 俺の提案に、 「……いや、もう少し遊びたい…」 小声で言い、つないでいた手をぎゅっと強く握ってきた。 「うーん、俺もそうしたいのはやまやまなんだが、もうそろそろ帰らないと家に着く頃には暗くなっちまうぞ。」 俺が言うと、ミヨキチは握っていた手を離し、すがりつくように俺に抱きついてきた。 「いや、もっと遊びたい。」 俺は、その時、ミヨキチの年に似合わない身体の感触を楽しむことを忘れ、ミヨキチの、普段なら絶対にとらないような態度に驚いていた。そういえば、ミヨキチは、今日は俺の妹だったんだな。素直に自分の感情や態度を示してもいい、兄に甘えてもいい、妹だったんだ。 「そうか、わかった。でもあと一回だけだぞ。いいか?」 俺の言葉に対して、ミヨキチは、俺に抱きついたまま、 「…うん。」 小さく答えた。 「じゃあ最後になにに乗りたい?」 俺が聞くと、ミヨキチは、躊躇なく一方向を指差して、 「あれ。」 その細い指の差す方向には、空中高くそびえる大きな円、観覧車があった。 「よし、わかった。じゃあ、行こうか。」 「……うん。」 観覧車に乗った俺たちは、なにをするでもなく、ぼーっと外を見ていた。 地上にある建物や行き交う人々が、だんだんとミニチュアのおもちゃのようになっていく。遠方を見ると、太陽が、地面に今にもキスしようかというぐらいにその位置を下げていた。 このまま何もしないのもなんなので、俺はミヨキチに、ぽつぽつと、話を振った。 「映画は面白かったか?」 「うん。」 「遊園地はどうだ?楽しめたか?」 「うん。」 ………… 少し前とは違って、ミヨキチはあまりしゃべらなくなった。俺は、疲れたんだろうと思って、気にもせずにくだらないことを話しかけていた。 「今日はすまんなあ、ハルヒのやつがいろいろ騒がせて。」 話題をハルヒのことにすると、ミヨキチは、それまで伏せ気味だった顔を上げて、俺を見つめてきた。 「お兄ちゃん。」 それまで、ほとんど自分から話すことがなかったミヨキチが、急に話しかけてきたので、俺は少々びっくりした。 「ん、なんだ?」 「ハルヒさんって、どんな人なの?」 「ハルヒか?」 俺は少し考えて、 「うーん、一言でいえば、騒がしい女、かな?」 「……」 「人の言うことなんか全く聞かないで、ぎゃあぎゃあ騒いで自分の言いたいことを押し通すような、勝手なやつだよ。」 ミヨキチが俺の顔をじっと見ているのを感じる。俺はその視線に合わせることなく続けた。 「騒ぎたければ自分一人で騒げばいいものを、他人を巻き込まないと気が済まないみたいだな。俺なんかはいつもつきあわされてるからいい迷惑だよ。」 「それじゃあ、お兄ちゃんはハルヒさんのことは嫌いなの?」 そう質問してくるミヨキチ。どんな表情をしていたのか確認していないが、俺の手を握っていた手の力が強くなったのは感じた。 「嫌いかって?まあ、積極的に好きってわけでもないが、嫌いってわけでもないな。あいつといるといろいろ面倒事に巻き込まれるのは確かだが、そのかわり、面白いことにもいろいろ遭遇するからな。おかげで高校生活は退屈してないよ。」 俺の話を黙って聞いていたミヨキチは、 「そう……」 それだけ言って、あとは黙り込んでしまった。 その後、俺が高校生活のことやらSOS団の話を一方的にしていたら、ちょうど観覧車が一周回って終点に着いた。 「さ、帰るか。」 俺の言葉に、 「…うん…」 ミヨキチはか細い声で答えた。 帰りの電車に乗った際、ドアが閉まる直前に駅のホームからけたたましい騒音とともに、 「こらー、そこの電車、待ちなさーい!」 叫びながら、ハルヒ達一団が同じ車両に乗り込んできた。 ハルヒはそばにいる俺達を見つけると、 「あ、変態!」 俺に向かって大声で叫びやがった。その声に他の乗客が一斉にこちらを見る。 「お、お前、変態はないだろう、変態は…」 「変態に変態って言ってなにが悪いのよ!あんた、ミヨキチちゃんに変なことしてないでしょうね!?」 「するか!バカ!!」 「バカとはなによ!平の団員が団長に向かって!!」 な どと言いあっていたが、その時他のメンバーはどうしていたかというと、朝比奈さんは妹を抱きかかえつつにこにこと俺達のやり取りを眺めており、長門はやは りいつもどおりじーーーっとこちらを眺めていた。妹は朝比奈さんに抱きついてふわふわのロングスカートに顔をうずめていたが、ちらちらと時々こちらを見て いた。ミヨキチは俺の手を握りつつ黙って床を見ていた。 俺とハルヒが言い争いをしているうちに目的駅に到着し、 「じゃあ、送っていこう。」 俺の言葉を耳ざとく聞きつけたハルヒは、 「キョン!あんた、ミヨキチちゃんを変なとこに連れ込もうとか、不埒なことを考えてるんじゃないでしょうねえ!?」 またなんか、因縁をつけてきた。 「んなわけないだろう!」 まったく、なんなんだ、この女は。そもそもお前の家は隣の駅だろう。 俺はハルヒを無視し、ミヨキチを連れていこうとした。 ところが、俺達が歩く後を、ハルヒ達がついてくるのだ。 「おい、ハルヒ。いったい何の用だ!?」 「別にあんたに用はないわ。私達の行く方向とあんた達のが一緒なだけじゃない!」 結局、ハルヒ達はミヨキチの家の前までついてくることになってしまった。ミヨキチは、道中はほとんど口を開かず、俺の手を握りつつ斜め後ろあたりを歩いていた。 ミヨキチの家に着くと、 「今日は楽しかったよ。ありがとうな。」 ミヨキチは、それまでずっと押し黙っていたが、俺の言葉にはっとなり、 「い、いえ、私も楽しかったです。」 焦りながら答えた後、 「今日は私のわがままを聞いていただいてすみませんでした。」 そう言うと、深々と頭を下げた。 このへんの所作は、やはり並の小学生にはない、大人っぽさを感じる。 「いやいや、俺も今日はホント面白い経験をさせてもらったよ。」 言いつつ、ちょっとからかうように、 「ミヨキチの意外な面も見ることができたしな。」 そう言ったら、ミヨキチは途端に顔を真っ赤にして照れるように顔を伏せて、 「あ、え、あ、あの、す、すみませんっ!わ、私、お、おにいちゃ、じゃなくてお兄さんがいないので、どう接していいのか分からなくって…」 「あ、ごめんごめん、別に責めてるわけじゃないんだ。あんなミヨキチもいいと思うぞ。」 「え?あ、ありがとうございます…」 最後の方はほとんど聞き取れないような小声でお礼を言うミヨキチ。 「今日はありがとな、これからも妹と仲良くしてやってくれい。」 「あ、はい。」 「じゃ。」 手を上げ、別れを告げた。そして元来た道に戻ろうと振り返って歩こうとしたそのとき、なにか弱い力で、上着を引っ張られるように感じた。その方向を見ると、ミヨキチが、真っ赤の顔を伏せて、俺の上着の裾を、つまむようにつかんでいるのが見えた。 「ミヨキチ…」 思わず出た驚きの声。ミヨキチは、なにかを言おうとして、また口ごもる、という動作を何度となく続けた。そして意を決したように顔を上げ、俺に対して、 「また、遊びに連れていっていただいてもかまいませんか?」 真剣な表情で言った。 俺は少し面食らったが、 「…ああ」 すぐに受諾の意思を伝えようとしたが、少し考え、俺はこう答えた 「うーん、ダメだな。」 ミヨキチは俺の言葉を聞くや否や、この世の終わりのような落胆の表情を浮かべた。 「あ、いやいや、遊びに連れていかないと言っているわけじゃないんだ。」 と、フォローする。ミヨキチはすぐに安堵の表情を浮かべたが、すぐに俺の言うことが理解できないというような表情になった。 「そうじゃなくって、今日はミヨキチ…じゃなくて美代子は俺の妹のはずだろ?妹が兄貴に対して、“連れていっていただいて”はないんじゃないかなあ。」 ミヨキチは俺の言葉をかみしめるように理解した後、笑顔で、先ほどの自分の言葉を訂正した。 「また遊びに連れていってね、お兄ちゃん!」 こぼれるような笑顔。 「ああ、いつでも連れていってやるぞ。」 そんなやり取りの後、俺達は分かれた。ミヨキチは、俺が見えなくなるまで手を振っていた。俺も、そんなミヨキチに応えるように、ずっと手を振り返していた。 道角を曲がり、ミヨキチの姿が完全に見えなくなったとき、俺の進路上に、まるでRPGの敵キャラのようにハルヒ達が登場した。 「キョン、ちゃんとミヨキチちゃんを送ってあげたんでしょうね。」 「ああ。」 「ミヨキチちゃんに変なことしなかったでしょうね。」 「するか、バカ。」 大股を開いてふんぞり返り、腰に両手をあてて、俺に難癖をつけてくるハルヒ。朝比奈さんは妹を抱きよせながらこちらを見て苦笑している。妹は朝比奈さんに抱きつきながらこちらを見ている。長門はいつものように直立不動でこちらをじいいいっと見ている。 いい加減ハルヒにつきあうのも面倒くさくなってきたので、妹に向かって、 「おい、もう帰るぞ。」 そう呼びかけると、 「なに勝手なこと言ってるのよ。妹ちゃんは今日は私達の妹なんだから、あんたなんかには渡さないわよ。」 とか言ってきやがる。そのあとぎゃあぎゃあ騒ぐハルヒを適当になだめたりすかしたりしていたところ、それを見ていた妹が突然とてとてと俺のそばに来て、 「ハルヒお姉ちゃん、わたし、もう帰る。」 と言った。ハルヒはあっけにとられたように、 「へ?あ、そう?」 あいまいな返事をしたが、 「今日はとっても楽しかった。ありがとう、ハルヒお姉ちゃん。」 この妹の言葉に、 「……まあ妹ちゃんが帰るっていうならしょうがないわね。キョン、今日のところは勘弁してあげるわ。」 言い捨てると、ハルヒはくるっと翻って歩きだしたが、またこちらに振り返り、 「今日のことは、明日、詳しく報告してもらうからね。」 吐き捨てるように言い、ずかずかと早足でいってしまった。 「みくるお姉ちゃんも有希お姉ちゃんもありがとう。」 妹の言葉に、朝比奈さんは手を振りながら、長門は無言で、お別れをし、歩いて行った。 妹が手を振っているのに倣って、俺も彼女たちが見えなくなるまで手を振っていた。 「さあ、俺達も帰るか。」 俺が言うと、 「うん。」 と言いながら、妹は俺の手を握って歩き始めた。 「今日は楽しかった?」 「ん?ああ、イロイロあって、なかなか面白い一日だったぞ。」 いつも通りの会話。妹は俺の手を引っ張り、常に俺より前を歩いていた。 「美代ちゃんって可愛いよね。」 そんな会話の中、こんな言葉を妹が発した。俺は何とはなしに、 「ああ、可愛いなあ。」 「クラスでも一番可愛いんだよ。」 「ああ、そうだろうなあ。あれだけ可愛いと、男の子にもてるんじゃないか?」 「うん、美代ちゃんが好きっていう男の子は、いっぱいいるよ。」 「いまどきの小学生は進んでるっていうからなあ、もしかして付き合ってる男がいるとか?」 そう言うと、妹はその俺の言葉にびくっとなり、 「……いないよ。」 と答え、一拍置いた後、 「…美代ちゃん、好きな人がいるって。」 妹の衝撃情報に、 「へえー、そいつは幸せ者だなあ。同じクラスのやつか?」 「違う。」 ぼそっと呟き、 「学校も違う、年上の人。」 消え入るような声で言った。先ほどまでの元気な口ぶりは、今はない。しかし俺はこの時、この変化に気づいていなかった。 「ほう、さすがミヨキチ、ませてるなあ。」 などとのんきな感想を漏らしたが、その後妹は極端にしゃべらなくなり、俺の問いかけにも生返事をするだけだった。おかしいなあと思い始めたときにはもう自宅に到着していた。 その夜、妹はやたらと俺にべたべたひっついてきた。飯食う時も、テレビを見ているときも、俺のそばを片時も離れず、はてはトイレや風呂にまでついてこようとした。 俺がいい加減鬱陶しいくて振り払おうとすると、妹はそのたびにまるで捨てられた子犬のような目で俺を見るもんだから、俺としても邪険に扱うのも気が引けて、妹の好きなようにさせていた。 「まあまあ、今日は一段と甘えん坊さんねえ。」 なんて、母親にからかわれても、妹はまったく意に返さず、ずっと俺にくっついていた。 そして、案の定、寝るときにも俺の布団にもぐりこんできた。いつも通り妹を抱えて連れていこうとすると、今日は俺の身体にしがみつき、足を俺の足に絡ませてきたものだから、どうすることもできなかった。 「お前、今日はさっきからおかしいぞ。どうしたんだ?」 そう聞くと、妹は俺の胸辺りに顔を埋めながら、 「……キョンくん……」 つぶやくだけだった。俺は、なんとか妹を離そうとしたが、それもかなわず、諦めて身体の力を抜いたとき、 「キョンくん、今日は一緒に寝ちゃダメ?」 「別にダメとは言わんが、お前も兄貴と一緒に寝るような年じゃないだろう?」 「わたしと一緒はいやなの?」 なにを言ってるんだと妹の顔を見ると、こちらを見る両眼に涙をいっぱいにためている。 いつも元気な妹からは想像もつかないような悲しげな顔に、 「…別にいやじゃないが……」 俺は少し考え込んで、 「しょうがない、今日は久しぶりに一緒に寝るか。」 そう言うと、妹は何も言わずに、にこーっといつもの笑顔を見せた。目からは涙が出てはいたがな。 それから妹は、俺の右腕にしがみついたまま、学校のこと、友達のこと、シャミセンのこと、今日の出来事など、いろいろな話をし、そして、しばらくして静か になったなと妹の方を見ると、いつの間にかすうすうと眠っていた。その眼の下には、先ほど流れた涙が乾いてすじがついていた。俺はそれを指先でたどり、そ してそのまま頬を撫でた。 やはりこれからはたまには妹もかまってやらないといかんなあ、しかし休みをつぶすとハルヒのやつがうるさいからなあ。って妹もSOS団の行事に参加させればいいか?妹も野球に参加させたこともあるし、おそらくハルヒの中でも準団員扱いだろうしな。 今までの妹の扱いに対する反省をしつつ、俺も眠りに落ちていった。 眠りに就く寸前に、俺は右腕から感じる妹の身体の感触から、その発育状態の未発達加減を認識し、あらためて妹の将来を心配したのであった 翌朝、やはりいつも通り、妹のダイビングボディプレスによって、悶絶する苦しみの中、俺は目覚めた。 「キョンくん、朝だよ、起きてよ!」 妹は、昨夜とは打って変わって元気を取り戻していた。 「わかったから、暴れるな!」 俺は激痛に耐えつつ妹を押さえつける。 「キョンくん、おはよう!」 俺が起きるのを確認すると、妹はすたこらっと1階に下りていってしまった。 妹は元気を取り戻したらしい。とりあえず、安心だ。 俺はベッドから起き上がり、うーんと伸びをした。 さて、今日も元気に頑張ろうか。